夏休みを前に。
試験が終わったとなれば夏休みだ。
明るい。
青春の。
これからの季節は眩しい。自身たちの姿を照らす陽の光と、それに落ちる影。その色も一層黒くなってきている。
この「黒さ」はまた、別の意味も含んでいるような、そんな錯覚を俊は覚えた。光が輝くほどに影は黒く落ちる。自分が沙耶と綾の間で惑っているのは理解している。しかし、どうすればいいというのだろうか。はっきり決められればいいのだろうが、その「はっきりと」の区分けが難しいというのが本音。
沙耶と歩いているときも、綾と歩いているときも、道に落ちる影に俊は少しの羞恥を覚える。
羞恥?
いや、違和感だろうか。「はっきりと」決められない自分への羞恥。どちらと一緒にいるのが自分にとって違和感のないものなのか、俊は決めかねていた。
そんな中で進む、普通の日々。
沙耶は直樹に別れを告げたという。ならば沙耶を選ぶのが妥当なのだろう。直樹は相変わらず馬鹿馬鹿しくも愉快な話を振り、自然に振る舞っている。
彼は自分に怒りを抱いていないのだろうか、と俊は度々感じていた。
夏休みが始まれば、俊はバイト
そう言えば、猿渡が夏休みの最後の一週間のうち数日空けられないか俊に聞いてきた。またあの合宿をやろうと言うのだろうか。猿渡にはなんの得もないと思うのだが、意外と気に入ったのかもしれない。
綾と直接連絡を取りたいが、メールアドレスが分からないとのことで事情を説明すると
「まーだ続いてんのかよ、めんどくせぇなぁ」
と笑った。細かい連絡も必要だろうから、と俊は綾のアドレスを渡した。
夏休みのうち数日は実家に帰るつもりだ。いつにしようか。同郷の沙耶と一緒に帰ることになるのはなんとなく俊にも分かっている。
羞恥の影を落とし、駅のホームに並ぶ姿を俊は夢想した。
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