沙耶の独白

 俊はいつまで経っても変わらない。高校生の頃のあのままだ。抜けていて、優柔不断で。

 昔はそこがいい、なんて思っていたけれど、最近は少し苛立ちを覚えるようになった。今だってあの娘ときっぱり切れていないのは分かってる。俊は私を馬鹿にしているわけでもない、むしろどうしたらいいのか分からない、そんなところなのね、きっと。

 

 あっちにゆらゆら。こっちにゆらゆら。

 ああ、風見鶏な貴方。


 隆と真由美を見ていると、なんだか羨ましくなってくる。なんていうんだろう。彼らには彼らが互いに敬意を払っている雰囲気を感じるの。


 俊が奢ってくれるというので、いつもの喫茶店で食事を摂ることにした。いつもの風景。いつもの美味しいカレー。

 少々客が多めな店内で、学生たちが思い思いのことを語っている。彼らのざわめきの間を縫うように流れる店内BGM。

 これはクレモンティーヌの「男と女」だっけ。あは、なんて素敵なタイミングでこの曲なのかしら。

 高校生の頃。私と俊は「付き合って」いたけれど「男と女」という意識はそれほど高くなかった。どちらかと言えば「Boy Meets Girl」ね。

 それがいつ変わってしまったんだろう。初めて抱かれたときから?そっと記憶をたどってみるとなんとなくそんな気がする。


 ノートのお礼を無邪気に語る俊。ねぇ、貴方は「男」なのかしら。それとも「Boy」?私には貴方が「Boy」にしか見えないのよ。

 お願い、おとなになって。貴方を信じても大丈夫って思わさせて。


 

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