後悔。

「じゃ、帰るね」

 綾がそう言って部屋から出ていった。その後姿を見送りながら、俊は激しい後悔にさいなまれた。つい、出来心とはいえ、なんてことをしてしまったんだろうか。あの少し華奢になった肩。それを思わず抱き寄せてしまった。しくじった。本当にこれはまずい。真由美あたりに知られたら「スパイス爆弾」では済まないだろう。

 いや、それ以前に沙耶に知られるのはもっとまずい。もう綾とは関わらないほうがいいのだろう。いや、そもそも部屋にいれたのがまずかったのだ。


 俊は今更ながらやってしまったことに激しい後悔を覚えていた。髪の香り、心地よい肩の抱き心地。

 つい。本当に「つい」だ。彼女を抱いてしまった。

 俊にとっては女性経験2番目の彼女。沙耶との「初めて」は散々だったが、綾を優しくリードできる自分に少し酔っていた感がある。それだけに「つい」手を出してしまったのだ。

 甘いため息をつく綾の姿は、自身を更に熱くさせた。


 ああ、もう!


 それにしても、自分はどちらをより愛しているのだろう。俊はそう考えた。沙耶はある程度長い付き合いで気も知れている。話していて楽しいのはもちろん沙耶だ。彼女だからこそ言えることだってある。

 綾は可愛らしいし、ちょっと臆病気味なところが愛おしいと思う。それは愛なんだろうか。好ましいと思うし、優しくしたいと思わせる雰囲気が彼女にはある。なんとなく自分が大人になった気がするのは綾。

 沙耶とよりを戻すことにした以上「どちらが」などと考えている事自体がおかしいのではあるのだが。

 

 思わず。本当に思わず抱いてしまった。迷いがあるのなら、それに決着をつけるべきなのだろう。「どちらも」なんて甘い話などあるわけはないし、それがバレた時のことを思うとぞっとする。

 

 沙耶だ。自分が本当に愛しているのは沙耶なんだ。俊は自分にそう言い聞かせ、乱れたベッドを整えた。

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