綾の独白

 私の可愛いクマちゃん。あなたはなにを見てくれていたかしら。私の実家、いえ、正確には子どもの頃に住んでいた団地の鍵がついたクマちゃん。

 子どもだった私は、それを無くしてしまって随分怒られたっけ。でも、大学生になって一人暮らしを始める荷物からでてきたときは驚いたわ。昔観ていたアニメーションのキャラクターがキーホルダーだった。それをクマのキーホルダーに付け替えたの。

 いつか、こんな日がくるかもしれない。俊くんと付き合い始めた時にそう思ったから。実家の鍵だと嘘をついていたけれど、全くの嘘ではないからいいわよね。そもそもこの鍵の目的は「開けるため」ではない。言ってみれば「置いておくため」のもの。


 一昨日、俊くんの部屋に行ったとき、彼は戸惑った様子を見せつつも迎え入れてくれた。無言電話の相談をしたい、って言ったからいれてくれたのかしら。それともまだ間に合うのかしら。

 バッグを整理しているふりをして、部屋の片隅にクマちゃんをそっと置いた。あの人はまた俊くんの部屋にくるだろう。その時にこの子を見つけたら、なんて思うかしらね。きっとまた無言電話かしらね。それともその前に俊くんに片付けられちゃうかしらって思ったわ。

 

 今日、またここにやってきた。あの人が俊くんの部屋から出ていったのを確認して、やってきたの。さすがの彼ももう、部屋にあげてくれないんじゃないかって思ったけれど大丈夫だった。

 私の可愛いクマちゃんは、昨日置いたそのままにそこにあった。あの人はこれに気がついてくれたかしら。その結果はもうすぐくるのかもしれないわね。

 

 ねぇ、クマちゃん。できることならあの人を食べてしまって。

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