Xの独白

 自分はどうしても綾が好きになれない。身体にまとわりついているようなあの違和感。あの娘は自分と同類の人間のような気がする。

 表に見せる顔。そしてその裏に沈む黒い想い。

 その黒い想いを表に出さないように、自分は苦心していた。今はそれは容易たやすいことになっているが。

 あの娘には、その黒い影が表にでているように思えて仕方ないのだ。

 

 同族嫌悪。


 そうかもしれない。あの娘の目を見ていると「お前の本性はわかっているのだ」と声を漏らしそうになるのが少し可笑しく思える。

 綾はきっと、今まで酷い目にあったことがないのだろう。だからこそのあの無邪気さ。

 無邪気?

 いや、無邪気なように見える振る舞い、といったところだろうか。

 自分も「あの事」さえなければ、綾や俊、沙耶たちのように学生時代というものを明るく楽しめていたのかもしれない。

 悔しい。あぁ、なんて虚しいのだろう。

 ほんの少しの染み。たったそれだけで自分は彼らとは違う生き物になってしまった。

 

 「恋」という言葉を聞くだけで、自分はどこか胸の奥に痛みを感じる。自分にはその資格はないのだと。

 見守ってやろう、彼らを。そっと手助けをしつつ。

 自分には恋はできない。その代わりとしてトリックスターを演じるのだ。

 

 

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