沙耶の独白

 あれは確か中学1年生のときだったかしら。同級生の女の子の家に友人たちで集まったの。ランチパーティーを兼ねて、その子の誕生日会のためにね。

 その子の親は両親共に働いていたから、キッチンをお借りして簡単な料理を作ったっけ。料理なんていっても、たかが中学1年生のこと。サラダなんかを適当に。ただそれくらいだったっけ。

 みんなで騒いで楽しんで。気がつけば夕方近くになっていたから、またみんなでお皿を片付けた。そうしていたら、その子のお母様が帰ってきて、軽く挨拶したら、

「あとはやっておくから、もう片付けは大丈夫よ」

 って笑ってくれたっけ。他愛のない、子どもらしい思い出。


 家に帰って、母にその話をした。その子のお母様の話になったとき、母は苦笑いしながら言った。

「台所は女の城だからねぇ、あまり勝手にいじらないほうがいいわよ」

 なんて古臭いことを言うんだろう、そう思った。


 でも、今ならなんとなく分かる。俊のアパートのキッチン。ふたりで時間を過ごした思い出が詰まっているそこ。

 いつも晩御飯の時間が近づくと、二人でじゃんけんをした。負けたほうが買い出しにいく。勝った方はそれでなにか好きなものを作る。そして負けた方は洗い物。

 高校生の頃は当然ふたりとも実家暮らしだったから、そんな児戯じぎに等しい食事づくりが楽しくて仕方なかった。

 俊がひとり暮らしをすることになって購入した調理器具は初歩的なものばかりで、足りないものはふたりで買いに行ったっけ。

 

 そんな思い出が詰まっているのよ、このキッチンには。一見あまり変わっていないように見えるそこ。でも、ちょっとした調理器具が少し変わっている。あの娘らしい可愛らしいものたちに。香辛料やなにかよく分からないものも少し追加されていた。

 あぁ、なんだか大切な場所を作り変えられてしまった。

 そんな気がしたの。私の城だなんて言わないわ。私と俊の思い出の場所だったの。そこに侵入者の気配がある。それがなにか悔しかったの。


 あの娘が持ち込んだとしか見えないお皿を割ってやった。俊は驚いていたけれど、あの時の私には悔しさをぶつけるのにはそれしかなかったのよ。

 そのことについて、俊。あなたに否定はさせない。そもそもの原因はあなたが私を裏切ったことに始まるのだから。

 

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