綾の独白

 もう本当に嫌だ。あれから相変わらずおかしなメールが届く。それだけではなく、非通知のいたずら電話もかかってくるようになった。出てみると無言。電話の向こうの相手は分からない。いえ、そうね。分かっているつもりでいるけれど。

 ね、素敵な女王さま。貴女だっていうことは分かっているのよ。

 女王さまっていうのは私が心のなかで勝手に決めたあだ名。私は子どもの頃からおじいちゃんとおばあちゃんに「お前はお姫さまだ」と可愛がられた。私が「お姫さま」なら、あのどこか余裕のある雰囲気をまとう彼女は女王さまだと思ったの。


 今日はインターネットの映画サイトである映画を観た。女の子たちの心に宿る黒い影の物語。女王さまの心もきっと色々な気持ちで乱れているのよね。

 映画の中で、彼女たちはある音楽を聴いていた。モーツァルトの交響曲第25番ト短調第一楽章。彼女たちがサロンで観たある映画のオープニング曲だった。短調と長調が交互に乱れるどこか不安になる曲。


 彼女たちが観た映画を私も観たわ。モーツァルトをライバル視していたサリエリの狂気のシーン。混乱する導入に目が惹きつけられた。随分古い作品だけど、面白かった。サリエリの狂気が特にね。自分が持っていないものをうらやむなんて、なんてバカなのかしら。私だったらそんなことはしない。「羨む」という惨めな行為は私自身が許せない。


 ああ、でも。俊くんのことだけは少し違うかも。すらりとした手足の美しい女王さま。彼女のその身体と私のそれを俊くんが比べているんじゃないかって、彼に抱かれる度に思うの。なんて嫌な気分!!

 それでも彼は私を選んだのだから、なんてことはないわ。なんてことない。そうよ。

 

 彼は最近どこか上の空うわのそらだ。どうしちゃったのかしら。少し調べたほうがいいのかもしれない。でも、たどり着く答えはなんだろうか。私を惨めにさせるものなら許せないわね。


 スマートフォンを手にとる。非通知設定の電話は拒否する設定にした。これでこれは解決。いたずらメールは処置なしだけど、もういいの。素敵な女王さまの狂気を、私は、嘲笑あざわらってみせてやる。


 

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