けじめ。
-無言電話がかかってきていたの
綾からそう聞かされたとき、俊は少しギクリとした。相手は誰だろうか。あの合宿の日のメール内容から察するに、自身と綾の関係、そして綾への強烈な憎悪をもった人物の仕業であることは間違いない。
綾との関係を一旦きちんと整理すれば、そんなことはもう起こらないのではないかと俊は思った。
勇気を出して。
迷いなく。
恐らくそれが最大にこの現象を収める、俊にできる精一杯のことだろう。
「なぁ、綾」
学生食堂の片隅。目の前でコーヒーを飲んでいる彼女に切り出した。
「なに?」
屈託のない瞳で見つめられ、少し緊張する。
「……あのさ……」
「なによぉ」
「やっぱり、ね。 沙耶とやり直そうかなって」
綾の表情がこわばった。
「なにそれ、なんで? なんでそうなるの?」
瞳に涙が浮き始めた。しまった、ここでするべき話ではなかった。学生食堂などという目立つ場所ではなく、もっと別の場所でするべきだった。
「いや、沙耶とは高校時代からの付き合いだし、気心が知れててさ、やっぱ……」
「そんなこと! 今から私と『気心』を養っていけばいいじゃない!」
俊の声を遮るように綾が叫んだ。人が比較的少なかった食堂のざわめきが一瞬止まり、皆の視線が集中する。まずい。やはりこうなったか。
「そ、外で話そう、な?」
「嫌! そんな話なんて聞かない!!」
綾はそう叫ぶと立ち上がり、食堂から駆け出ていった。気まずい空気が刺さるように感じた俊は、残された食器を片付け、そそくさとその場を後にした。
綾とのやりとりを沙耶に伝えたのはその夜。
「そ、分かった」
電話口から聞こえる、そっけない沙耶の言葉に少し落胆する。あんなところであんな修羅場を周囲に見せたのにも関わらず、随分他人事のように答えるものだ。いや、自分が悪いのは俊にも分かってはいるのだが。
「きっちりけじめつけたから。 また、な?」
そう言って俊は電話を切った。
その電話から約二時間ほど経ったとき。メールが届いた。綾からだった。
-公衆電話から無言電話がきたの。ねぇ、やめさせてよ。
その一文のみ。「やめさせて」? 綾は何を言っているんだ。無言電話の相手なんて知らないし分からない。綾と俊のことが関係しているのだろうとは思うが、一応けじめはつけたつもりだ。きっとそのうち収まるだろうし、第一こちらから「やめさせる」ことなど出来はしない。綾はなにか混乱しているのではないだろうか。
面倒なことになったとため息をつき、返信することなく俊は寝ることにした。
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