迷い。

-綾にどう伝えようか。

 ここしばらくの俊の悩みの種。自分が蒔いた種であるのだが。沙耶と元の仲に戻りたい。しかし、綾にそれを告げることに躊躇ためらいを感じる。

 どう伝えようか。 

 いや、伝えるべきなのだろうか。


 今のところ、沙耶は綾との関係について何も言わない。恐らく、これからも言わないだろうと俊は感じていた。しかし、それに甘えていいのだろうか。


-やり直す


 ふたりの関係をまた元に戻す。それだけのことだが、綾の存在が心に沈んでいる。恐らくは。綾と関係を持つべきではなかったのだろう。こんなに短期間で心が揺れるのがその証左だ。

 初めは綾の愛らしさに思わず惹かれた。それは恋だったのだろうか。心にパチンと弾かれたように感じたあの微笑みは、今となっては少しおりのようなものになっている。


「ね、俊くん。 なに頼むの?」

 俊は綾の声に我に返った。ここは先日沙耶ときたばかりの例の喫茶店。昼食を摂るつもりできていたのだ。

 (例によってマスターは素知らぬ顔をしていたが)

「あ、あぁ……えぇっと……」

 この店のセットメニューは3種類。主にパンかパスタ、米を使った料理がメインのセットになっている。


-迷い。


 俊は複数の提案を出されると、子どもの頃から迷いやすい性格だった。どれにしようか。いずれも甲乙つけがたく、そして「乙丙つけがたい」とも言える。これは俊が心のなかで勝手に作った造語。つまるは、どれも良と感じると同時に、どれにも興味をそそられないアンバランスな感覚だ。


「あーっと、綾と同じので」

 単純明快、無難な選択をした。彼女はサンドイッチのセットを頼んだようだ。


-悪くない


 俊はしばしばこういう選択をする。その感覚はまるでくじ引きのようでもある。いくつかの「物」がくじで得られるとき。いずれが当たったら自分が嬉しいのだろうか、という感覚。そして選ばれたものを手にしたとき「嬉しい」と感じるか「ハズレたな」と感じるかで、ようやく「甲乙」が理解できるのだ。


 今回のメニューの選択は当たり。

 さて、このあとどう自分は動きべきなのだろうか。そんな思いで、目の前の綾を見る。楽しげに友人と遊びにいったことを話している彼女。


 あぁ、その笑顔を。

 その笑顔を崩すことができるのだろうか。


 自身が作った澱に、俊は引き込まれるような感覚を覚えた。

 

 

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