Xの独白

 そう。「スパイスをもうひとつ」。

 これが肝心。

 玩具を分解して組みなおすだけの作業には不要な要素。


 以前、叔母が「旦那が最近冷たい」と悩んでいた。

 そんなものなんて少し刺激をくわえればいいのに、と思った。

 だから少し試してみることにしたのだ。

 叔母の夫。これは父の弟なのだが、彼の行動パターンを数日観察した。


 父の弟、すなわち叔父は毎日2時間ほど残業をして帰宅する。

 大体19時ごろに会社を出て、その後路地にある小さな居酒屋で30分ほど過ごすようだ。

 店を出てからは路地をそのままとおり、ラブホテルの前を通って駅へと向かう。

 これを利用することにした。


 知人の女性に頼んで、そのラブホテルの前で叔父に道を尋ねてもらうことにしたのだ。

 角度によっては親密に見える立ち位置で。

 その瞬間を写真に撮り、叔母にフリーのメールアドレスで送りつけた。


 きっと叔母は叔父を問い詰めるだろう。

 叔父はなにも身に覚えがないのだから、否定するだろうし話し合いをすると思ったのだ。

 「雨降って地固まる」の言葉どおり、ちょっと壊れかけてからのほうが上手くいく。


 そう思ってたのに、ふたりは離婚した。

 がっかりだった。

 修復の手伝いをしてやったつもりなのに完全に壊れるなんて。


 玩具の組みなおしに飽きてからは「人間関係の組みなおし」に取り組んでいた。

 初めて試したのは中学生のころだっただろうか。


 友人同士のつまらない諍い。

 ちょっと「スパイス」を入れてみたら仲直りした。

 単に互いが言っている誤解を嘘をついて相手に伝えただけなのだが。

 「スパイス」というには甘いものだけれど。


 叔父と叔母への「スパイス」は刺激が強すぎたのだろう。

 今度の3人。彼らへの「スパイス」は用意してある。

 どんな風に動くだろうか。考えると愉快で頬がゆるむ。

 人間関係への刺激ほど面白いものはない。

 自分にとっては理解し難い方向にことが進む場合のほうが多いのだ。


 ああ、どうなるんだろう。

 この「スパイス」はどんな香りがするんだろうか。

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