異変。
ふと後ろから声をかけてきたのは沙耶だった。
「あれ、沙耶ってタバコ吸ったっけ?」
「ううん、ちょっと外の空気を吸いたくなっただけ」
「そっか」
元別荘地とはいえ、街の明かりが影響しているのか星はそれほど見えない。
しばらく無言の時間が続いたが、俊は酔いの影響もあってつい言葉をもらした。
「なぁ、俺たちやっぱりやりなおしてみないか?」
「……随分、勝手なのね」
「だな。なんつーのか……直樹とお前が一緒にいるのを見てるとなんか妬けるっつーか」
「綾ちゃんはどうするのよ? 私、悪者になるみたいで嫌だわ。でも……」
「でも?」
「……その言葉、待ってたような気がする」
沙耶はそう言った後、目をそっと伏せた。
その姿が愛おしく、俊はそっと頬にキスをした。
何事もなかったかのようにふたりはリビングに戻った。
中では他の5人が歓談している。
酒の勢いもあってか、隆と直樹はやたらと楽し気に猿渡に話しかけていた。
猿渡は酒は飲んでいないようだ。
時折「うっせーよ」「バカだろ、てめぇ」などと猿渡らしい返事をしているが、顔はいたって柔和で楽しんでいる様子がうかがえる。
綾と真由美は、ほぼ初対面ながらも打ち解けて話し込んでいる。
そんな夜が穏やかに過ぎた。
事件が起きたのは翌朝。
「やだ!」
綾の声に俊は目を覚ました。
「どうした?」
「みて、これ。変なメール」
言われて携帯電話の画面をみるとそこにはこう書かれていた
―寝取り女の陰売娘
「なにこれ?」
思わず俊がつぶやいた。
「分かんないわよ。気持ち悪い……」
俊は一瞬沙耶がこのメールを送ったのかと思った。
しかし、昨日の様子を見る限りそれはないだろう。
「訳分かんねぇし、着信拒否したら?」
「そうする……」
ふたりは身支度を済ませ、リビングにいった。
他のメンバーはそろっていた。
軽く朝食を済ませ、各々部屋に戻ったり、トイレに立つなど自由に過ごしていた時、綾の携帯電話がなった。
「嫌!!」
鋭い綾の声に、その時リビングに残っていた俊と隆があわてて彼女に近寄った。
―見た目はかわいくても、心はゴミクズ
「……着信拒否したよな?」
「うん……でも、これケータイのアドレスじゃないわ」
そういわれてよく見ると、携帯電話でも使えるフリーのメールアドレスだった。
「どうしよう……」
綾が涙ぐんでいると、猿渡がリビングに入ってきた。
「どうした、おめーら」
「いや、なんか綾ちゃんのケータイに変なメールがきてるんです」
「あぁ? 見せてみろ」
画面を見せると、猿渡は不愉快そうに眉をまげ、
「綾ちゃんがメアドを変えるか、無視するかしかねーな」
とため息交じりに言った。
そうこうしているうちに他のメンバーもリビングに揃った。
みな、一様にメールへの不快感を口にした。
別荘から出た後は、小さな植物園を訪ねた。
なにごともなかったかのように振舞ってはいたが、綾の表情は少し固かった。
真由美が積極的に綾に話しかけ、少しずつ雰囲気も和やかになった。
その後はそれぞれ帰路についた。
―またメールがきた
そんなメールが綾から来たのはその夜。
綾はメールアドレスを変えることにするという。
彼女からの頼みで、俊は合宿メンバーに新しいメールアドレスを伝えた。
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