沙耶の独白

 俊たちとの旅行の話をもちかけられたとき、なんて馬鹿なことをいう男だろうと思った。

 俊とその今カノ。そして元カノの私。

 その組み合わせで旅行にいこうなんて、直樹はなんて馬鹿なんだろう


 一瞬迷ったけれど、了解した。未練を持っているなんて思われなくないから。

 彼が「前から付き合っていた」と俊に言ったときは、流石に腹が立ったのは事実。


 直樹と始まったのは俊と終わってからだったし、確かに前からデートのようなものはしていたけれど直樹は「友人」であるという線は引いていたわ。

 なのに「未練があるのか」なんて直樹は言った。

 私は。

 私は未練なんて持っていない。そんなことは私のプライドが許さないのよ。


 旅行の話が出たときも、断ったらきっとまた何か言うだろうと思った。

 だから行くことにした。未練なんて……ないわ。


 俊は難色を示していたらしい。そうね、彼は常識人だからそういうところ、分かってる。

 結局旅行の話は4人で、というところから7人になった。

 猿渡先輩が手配してくれたっていう貸し別荘。なかなかいい感じで素敵。


 部屋割りは先輩が考えてくれた。

 女性陣と男性陣で分かれるのかなって思ったけれど、カップルごとになった。

 そのほうがいいかもしれない。私はあの綾と普通に話す自信がないから。


 ああ、いや違う。未練じゃないのよ、これは。

 ただ単に複雑な関係よね、ってだけ。それだけ。


 ……私たちの部屋の隣は隆たち。その隣が俊たち。

 ふたりはこの夜をどんな風に過ごすんだろう。同じこの屋根の下で。


 未練じゃないわ。決して違う。

 かつて愛していた人だもの。そんな風に思うのも別におかしなことではない。












 ねぇ、俊。今夜だけはあの子を抱かないで。

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