第3話 隠し事
「
たしかにそう聞こえた。
のっけから盗み聞きなんかでごめん。帰りぎわ、クラスメートの
真帆はいつもつんつんしていて私はきらいだけどまあ美人で頭もいいから多少態度がわるくってもまわりのひとは許しているみたい。それにしても
「あんたこそ、いいかげんよけいな世話焼くのやめなさいよ。いつまでもこのままでいいと、あんたほんとにそう思ってんの?」
真帆の調子も負けず劣らずきつい。いやあ期待どおりだわ、いっそすがすがしいや。
「うるせえな。おれなりのけじめなんだよ。おれのせいだからな」
「なら私のけじめはこれってことよ。ぜんぶ私のせいなんだから。あのとき力の足りなかった私がいちばんわるいんだわ」
それから声が低くなった、なに言ってんのよ聞こえないってば――いらっと耳を扉に当てると言葉が戻ってきた。
「あんたも気づいてるでしょ。あの子の心、このごろどんどんわるい方へ行ってるわ。ぜんぶ記憶を消したつもりでも、なにかが残るのよ。このまま進んでもどっかで壊れる。いつまでも隠しとおせないのよ」
話す声がどんどん近づいてくる。
「話はおしまい、私は私のやり方でけじめをつける。貴理子は真実を知るべきだわ」
そして扉の開く音。
***
午後九時まではあと九分。
私は制服のままの格好で、自分の部屋のベッドのうえにいた。玄関からこっそり持ってきた靴をかばんにひそませて。そして膝のうえには妙なかたちの草がひとつ。
今日学校であったことはなにもかも夢だ夢なんだ、そう夢、夢。とさっきから呪文みたいに繰り返してぼおっと天井を見ていた。
理科準備室から出てきた真帆と鉢合わせてしまった私はまぬけ
「盗み聞きはよくないわ」
「勝手に聞こえたんだよ。わざとじゃないって」
ごめん嘘だわ。真帆はわかりやすい不機嫌なため息をながあく吐ききって、
「まあいいわ……貴理子」と名前で呼んだ。「回覧板は読んだね」
「読んだけどなにがなんだか……え、あれ真帆が書いたの?」
これまで私たちふたりには接点なんてろくになくって、私が真帆を名で呼ぶことはなかったし、私が名で呼ばれることもなかった。なのにとてもしっくりきたのがふしぎだった。これ以上ないすごく自然な唇のうごきで真帆は「貴理子」と言った。それよりもっとごくごく自然に真帆は、ちんたら歩く私にあゆみを合わせた。ねえ真帆、もしかしてこんなこと前にもあった?
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