第2話 回覧板


「ねえ、つかさ

 むかつくけれど、困ったとき頼りになるのはやっぱりこいつだ。それにほんとに助けを必要とするとき司はけっして私を見放さない。とはいえ今が授業中ってのは相談するタイミングとしていかがなものかな。

「ヴァルプルギスってなに?」

 ちんぷんかんぷん、だよねまったく。なんの呪文だよって笑われるの覚悟で聞いたんだけど、でも司の反応はちがった。

「どこでそれを聞いた?」

 顔色がかわった。がたんと椅子が倒れた。ばらばらとプリントが机から落ちた。クラス中のみんなが司と私に注目して、そのあと司は先生の説教をたっぷり喰らった。


 ざまあみろ、って普段なら思うとこだけど今日は私のせいだからなあ。ごめん、司。




 朝のトイレに話を戻そう。

 私の血があふれ出したとき頭のうえから降ってきたトイレットペーパー。

 ロールをくるくるまわしてごわごわの紙をたぐり出すと、そこには走り書きされた青いインクの文字がじわあっとにじんでいた。


「ヴァルプルギス。今夜九時。理科棟の屋上。雨天決行。参加は自由、申込不要。読み終えたらすみやかに次の魔女へまわすこと」


 初めはなんのいたずらだよってさっさと捨てようとした。でもまっなトイレに流そうとしたとき、これは捨てちゃだめだって声が頭の奥から聞こえてきたんだ。気のせいかもしれないけど、非科学的なことなんて私は信じないけど、それでも私は自分の直感だけはついつい信じちゃうんだな。



 それにしたって書いてることはなにがなんだかさっぱりだ。というわけで司に頼る。

「ああ? いたずらだよいたずら。夜中に学校の屋上でなにやるってんだよ。てか、魔女ってなに? 次の魔女ってだれ?」

 だよねえ。とは思うんだけどさ……なんだってそんな私の顔を見てくんのよ。いっつも能天気なくせに、たまにあんたこわい顔するからいやだ。

「私が聞きたいよ。次の魔女にまわせったって、魔女に知り合いなんていないしそもそも魔女なんているわけないし」

「まったくだよ」

 司は目力メヂカラたっぷりのかっちかちな表情をこころもちゆるめて、私の手からトイレットペーパーを取りあげた。

「おれが捨てといてやるよ、こんないたずら忘れちまいな」

 背を向けた司に、ふと思いだして私はもいちど訊いた。

「ねえねえ、ヴァルプルギスってなに?」

 司が一瞬止まった気がした――これは私の直感。でも司はなにも言わないで行ってしまった。


 私は自分の直感を信じている。妄信している。そんで妄信って自分で言うのはほんとは信じちゃいないのにそれしかすがるものがないから信じるふりしてるだけなんだって、ちゃんと知っている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る