第8話 噴火
Visionsはそれぞれ感づいていた。ある者は大地の振動から、ある者は音を、別の者はニオイを、空気の味を、大地のエネルギーの放出を…。
キンベリーは決めた。
「そろそろね。やりましょうか。」
キースたちが訪問してから2ヶ月が経った。
この間、ジャックとリンジーはいつも通り会い、ライブラリーで楽しんだ。
ただ、ジャックの周りにはドローンが飛び、外であのことについて話すことはなかった。
緊急速報が端末に配信された。
『火山が噴火しました。周辺地域に降灰の可能性があり、物流が一時的に滞るなど、生活に支障を来す可能性があります。新しい情報が入り次第、お伝えいたします。』
ジャックとリンジーは顔を見合わせた。
ジャックの端末が着信を知らせた。デビットからだ。
「ジャックさん、今の緊急速報聞きました!?カイルがインターネットダイブで場所を特定しました。」
「ダイブしたのか!?大丈夫か?」
「短時間なんで大丈夫です。それより噴火の場所なんですが、あなたが相続した土地のすぐそばです!彼らは?施設は?大丈夫なんですか!?」
ジャックはデビットが話していることを一瞬理解出来なかった。ハッと我に帰った。
「ちょっと待ってデビット!何を言っている?」
「火山はあなたが相続したであろう土地のすぐそばで起きたんです。」
「本当に?本当なのか?」
「ええ。もうしばらくするとネット上にも情報が上がってくると思います。」
「分かった。もう少し確かな情報を確認してみるよ。連絡くれてありがとう。」
そう言うのが精一杯だった。通話を切った。
火山が噴火しては、降灰の影響で視界も悪くエンジンの故障にも繋がるため、飛行機を飛ばすことが出来ない。
真相を聞きに訪問したかったのだが、叶わなくなった。
それより何より、今、visionsはどうしているのか?無事なのか?気になって仕方がなかった。
リンジーとすぐに帰宅し、火山の情報を確認しながら、キンベリーに連絡を試みた。しかし、やはり繋がらない。
火山の情報はどんどん上がって来た。ジャックが相続した土地の確かな場所は分からないが、リンジーが最初にジャックを追いかけた場所、キースたちがシェアしてくれた場所の近くであることは間違いなかった。
“とにかく無事でいてくれ。火山から遠ければ食糧自給できるはず。“ジャックは祈るしかなかった。
しかし不思議だった。“噴火の場所も予測していただろうに。“
それから一週間程度激しく噴火が続いた。
その後は小康状態で、噴煙は常に上がり続け、時折噴火するといった状態であった。
空輸による物流はかなり制限された。また広大な農地が降灰により利用できなくなったため、生鮮食品の供給量も減った。そのため、蓄えられた穀物による食糧支給はあったが、ビタミンなど身体の機能を整えるような成分はサプリメントなどによる支給になることもあった。
太陽光はかなり遮られたようで、平均気温が2度ほど下がった。さらに太陽光による発電量も減少した。幸い春先の噴火であったため、気温の低下によって冷房器具の使用が抑制され発電量はギリギリ足りた。例年であれば冷房器具の使用により停電が頻発していただろう。
しかし、このままだと冬の暖房のための電力が足りない。そこでゴダイは噴火した火山の地熱を利用することを発案した。すぐに議会におろし、人間たちに議論させ、地熱利用の法案を通した。
まだまだ噴火した場所周辺は安定していないが、地下水脈などを通して熱が運ばれてくる場所を特定していった。そして、いくつもの地熱発電施設を建造した。温室を隣接して建造することで食糧生産施設として稼働させた。
なんとか社会システムを回復させることが出来たが、食糧や物資は制限が多かった。人々は安定した生活から制限のある生活になり、不安が増して行った。そして“何か行動を起こさなければ“という機運が高まっていた。こういう時必ず現れるのが自称救世主である。先導者か扇動者かは分からないが、恐怖を煽って人々を一致団結させる。「こんな時こそ一致団結を!」というグループが別々にでき、互いに互いの主張を否定し分断を煽る。宗教や信仰は悩みから救ってくれたり、生き方を正したり、良いことも多く人生には必要なものだと認識している。しかし、ゴダイは理解出来なかった。特にこのような非常事態に勃興する宗教とも言えない団体活動は、非合理、非効率、矛盾した言動であり、何も解決していない。現状維持を望むから変化を恐れ将来に不安を抱くのだろうか?しかし、変化してしまえばそれが新しい定常状態となり、慣れるはずである。時が解決してくれるのだからじっとして日々を楽しめば良いのだ。何かを創作する趣味については、物資の不足もあり限定されてしまっている。しかしライブラリーは開いているし、学習なども今まで通り可能である。
しかしこのままでは暴動などの破壊活動が起こらないとも限らない。効率的な社会システムを維持するためには、より規制を強めることが手っ取り早い。しかし歴史的に見ても、規制を強めた場合、その瞬間は治るが、その後、より大きなうねりとなって社会不安が増す。結局、不安や恐れなどの鬱憤を外に放出させることが重要である。ここで外に敵を作ることで国威を発揚し団結も出来るが、これもまた後々の外交に多大なエネルギーが必要となる。平和に人々の鬱憤を放出させるために、大会や祭りを開催することにした。コストがかかるが、社会不安による破壊と創造のコストと比較すると安い。
噴火の影響は数年続くと想定された。大会や祭りに飽きられる前に、せめて食糧供給だけでも安定化させなければならない。やはり飢えが良くないのだ。全国の自給自足者をリストアップし、協力を依頼することにした。
ジャックに政府からメッセージが届いた。
“俺、また監視されるようなことしたっけ?“と思ったが思い当たらない。この1年は噴火のせいで何も出来なかったのだから。仕方なくメッセージを確認した。
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ジャック様
食糧管理局からのお願いメッセージです。
貴殿の所有する下記農場で収穫された食糧の一部を寄付して頂けませんでしょうか?
貴殿もご存知のように、先日発生した噴火の影響により、国内の食糧供給に支障をきたしております。
下記のように量に応じポイント還元させて頂きます。
ご賛同いただけるようでございましたら、添付フォーマットに電子サインをお願い致します。
貴殿所有の農場住所…
ポイント交換…
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確かに農場を相続している。毎年、オーバー分はvisionsの知人に送ったり、政府に納めたりしている。
“でも…、この土地は噴火でダメになってるんじゃ?“
ジャックはもう一度メッセージに記載されている住所を確認した。
“あ、この手があったか!“
ジャックはすぐに自分の資産を問い合わせた。自分の所有している資産についての情報が記載されている。不動産情報を確認する。今住んでいる部屋と、さらに2つの住所が記載されていた。
“なぜ二箇所?“
二箇所のうち一つは、今回のメッセージと一致した。問題はもう一つだ。さっそく地図情報で検索し、場所が特定できた。すぐにリンジー、キース、デビット、カイル、ローズにメッセージを送った。
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ジャックです。
今更なんだけど、俺が行ってた場所が分かったよ。
もう一年も経つけど、君たちの予想した場所で合ってたようです。
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返信があったのはデビットからだった。
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デビットです。
ご無沙汰しています。
どうして分かったんですか?
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うっかりしてたんだけど、自分の資産を確認できることを忘れてたんだ。
そのことを思い出し、自分の持っている資産の住所を確認したところ、君たちにシェアしてもらった地図の中心と一致したんだ。
ジャック
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でもまた急ですね。
何かあったんですか?
デビット
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政府から連絡があって、『食糧を提供して欲しい』と。
そこに食糧提供の場所の住所が記載されていたんだ。。
ジャック
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なるほど。
でも、あの土地は噴火でダメになったのでは?
デビット
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そうなんだよ。
実は記載されていた住所を見て自分の資産を確認できることを思い出したので、確認したんだ。
すると二箇所住所の記載があったんだよ。
一つは政府から連絡のあった場所。
もう一つが分からなくて、地図検索をしたら君たちの教えてくれた場所と一致したんだ。
謎なのは政府から連絡のあった場所なんだよね。
地図検索もしたんだけど、全然分からないんだ。
ジャック
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デビットは思うところがあった。
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その政府から連絡のあった場所の住所を教えてくれませんか?
デビット
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ジャックは住所をシェアした。
デビットは送られた住所を検索した。そして、飛行機の目撃情報の多かった地域のもう一つの中心地と比較した。“やっぱりか。“
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ジャックさん。実は飛行機の目撃情報を最初に集めたときに、二つの中心地が見出されました。そのうちの一つが、あなたが頻繁にアクセスしていたことから、あなたの街を特定し、あなたに行き着いたわけです。
しかし、もう一つは分かりませんでした。ところが、今回の政府から伝えられた住所と一致しました。トーマスの養子さんたちと関係があるはずです。
デビット
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しかしこの件については全く分からないよ。実は相続の手続きとかは彼らを信用して任せていたんだ。何箇所か電子サインをするところがあったから、まさか二箇所とは気付かなかった。
ジャック
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みんなでまた集まって作戦を立てませんか?
なんならその場所を訪問しに行きましょうよ。
デビット
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ローズです。
私も話を聞きたいです。
そもそもは私の行動に関わることですから。
ローズ
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キースはどうする?私はまた会えるなら楽しみだけど。
リンジー
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もちろん会いたいわ!
ローズ、デビット、カイル、私も入れてね☆
キース
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すみません、この前話したように、ローズにはDiBIC仲間が居て、同じように悩んでいます。
彼らも誘っても良いでしょうか?
カイル
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構わないよ。君たちに任せるよ。
ジャック
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それから日程、集合場所、メンバーを調整した。
ローズやキースの住む街が中間地で、かつ関わる人間も多いことからその街にした。他にも理由があった。実はこの街には運河があり、今回政府からジャックに連絡のあった場所の近くの街まで船便が出ている。もし現地に行くとなった場合、何度も飛行機を乗り継ぐよりもずっと楽だ。
政府への返信は1ヶ月後が目処であったので、早めが良さそうであった。そこでさっそく5日後に集合した。
集まったのは、カイル、デビット、ケン、マット、ローズ、キース、ジャック、リンジーであった。
デビットが切り出した。
「二箇所目ですが。みんなも地図で確認した通り、今回の噴火からは十分遠方なんです。土地の広さは?」
「資産を確認したら、一つ目の場所とあまり変わらない。建物の数は10棟と多いけれど。」
「最新の衛星写真で確認しましたが、確かに10棟建ってました。」
「でも、ホントにそこに彼らは居るのか?」
ケンが尋ねた。デビットが答える。
「分からない。でも、間違いなく彼らに関係している。」
キースが話す。
「あれからも友人のヒューイに頼んで、飛行機の目撃情報を集めてたの。あの噴火前まで飛行機の目撃は続いていたわ。」
「二箇所ともかい?」
「ええ、二箇所とも。」
「やっぱり何かある。そして誰かは行っている、ってことですね。」
「突然、訪ねても大丈夫かな?」
ジャックが不安気に、申し訳なさそうに口にした。
「ジャックさんの土地なんですよ。後ろめたいことなんて何もないでしょう!」
デビットは行く気満々だ。
「実は…」
ジャックが話し始めた。
「彼らを訪問する前に、君たちに話しておくことがある。とても信じてもらえそうにないことだし、変な好奇心を持たれてはいけない、と思って話してなかったんだけど。」
ジャックは彼らがインターネットに直接接続できること、得られた情報から未来を予測していることを話した。
「彼らもDiBICができる、ってことですか?!しかも未来予測まで…。」
カイルが驚いていた。そして続けて話した。
「噴火の日以来、DiBICのアクセス制限解除機能が無効化されました。そしてDiBQのサイトも消えました。デバイス自体機能していないような感じなんです。」
「それ、私もよ。」
ローズが同意した。
「なんかもう用済み、って感じがするのよね。養子さんたちはどうなのかしらね?」
「とにかく真相は彼らに聞くしかないみたいね。」
キースが話をまとめた。
行く気満々のデビットが事前に調べていたのだろう、船の手配の仕方から最寄りの街からの移動手段まですぐに共有され、手続きを進めた。明日にも出発だ。
メンバーは、ジャック、リンジー、キース、ローズ、カイル、デビット、マットだ。ケンは大勢で行ってもなんだし、DiBQによる影響も無かったので行かないことにした。
「マットも行くの!?」
ローズは驚いてマットを見た。
「僕が行くのはまずいですか?僕だって気になりますよ。」
「ま、良いけどね。」
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