第5話 検索

 ケンはゲームは好きだが得意ではない。DiBQを途中までクリアして行き詰まっていた。

 先にクリアした仲間はDiBQについて記憶を失っていたし、他の仲間は決してヒントを教えてくれなかった。むしろDiBQについて語ることを恐れているようでさえあった。確かに記憶を失った仲間を見ると口に出すのも恐ろしい。

 カイルからの連絡には驚いた。が、期待もした。“クリアしていくと何があるんだ?“

 カイルは3日後、デビットという友人とやってきた。

 自分よりも若く背が高い。DiBQを先にクリアした仲間みたいに痩せて疲れた雰囲気があった。

 近くのオープンカフェの隅の席に座った。

 「ケンだ。わざわざ来てくれてありがとう。」

 「カイルです。こちらこそわざわざありがとうございます。こいつはデビットで、俺の友達です。」

 「デビットです。」

 カイルは続けた。

 「見知らぬ奴からの急な連絡ですみません。まず耳掛けデバイスをオフにしてもらえますか?」

 デビットもオフにしていた。“連絡取れなくして襲ってくるんじゃないだろうな?“ケンは警戒した。

 「すみません、どうしてもオフにしてください。今日、この話を伺うために来たんですから。」

 「確かに。話をしに来てくれたんだったな。怪訝な顔をしてすまない。なにせ初対面だったし。」

 「いや、こちらこそすみません。」

 ケンがデバイスをオフにしたことを確認した。

 「さっそくですが…」カイルが喋る。

 「インターネットに書き込んでいた“ヤバいゲーム“について教えてください。」

 「あれか。実はまだクリアできてないんだ。」

 「そうですか。仲間は?」

 「全クリした仲間もいる。でも、何にも教えてくれないんだ。カイル君とデビット君はどこまでクリアしたの?」

 「あ、俺はDiBICユーザじゃないんすよ。」

 デビットが先に答えた。

 「俺は全クリしました。」

 「本当に!?どうやって?どうしても8thステージで詰まっちゃって。でさ、全クリするとどうなるわけ?皆、なんか変になっちゃってさ、警告を書き込んだんだけど…。君は無事なんだ?」

 ケンは矢継ぎ早に聞いてきた。

 「いや、その、無事ってわけじゃないんです。」

 カイルは全クリすると通信速度制限が解除されること、通信速度制限が解除されるとますます臨場感が増すこと、意識を失ったこと、心身ともにやたらと疲れが残ること、を話した。意識不明の間に“何か“が起こっていることは敢えて話さなかった。この件についておそれをなして話さなくなると困る。

 「同じような体験をしてる人がいないかと思って話を聞きに来たんです。ネット上に情報がまるで無いのも不思議で。」

 「俺の仲間も実はDiBQについて書き込んだらしいんだよ。なぜかそいつの書き込みはすぐに削除されて、そいつ自身もDiBQに関する記憶だけ無くしたみたいなんだけど。演技っぽく無いしな。」

 横で聞いていたデビットは後悔し始めた。“かなりヤバい話してねぇか、これ?“

 カイルが聞いた。

 「それってかなりヤバい話なんじゃないですか!?書き込みも記憶も操作出来るなんて!」

 「まあね。でも、書き込んだかどうかは今となっては分からないんよ。」

 「インターネットの書き込みって、昔から『消せば増える』で有名じゃないですか?それを消したんですか?」

 「まぁ仲間はそんな有名な人間でもないし、広まる前に消されたら分からないよね。大体、DiBQ自体はシークレットじゃなくて、普通に検索出来るしね。」

 “確かにそうだが…。“

 デビットは考え込んだ。そして聞いた。

 「じゃぁ、どういうことなんですかね?DiBQはシークレットじゃないけど、広まって欲しくない?でも、それって作成者にとって何の得があるんでしょうか?」

 「広まって欲しくないのか?それとも…、例えば、リワードを払いたくない、とか?」

 カイルが答えた。

 ケンも続いた。

 「それなら、ゲームの難易度を高くしても良いような。他の可能性は?プレイヤーをシークレットにしときたい…、誰がやってるかが分からないようにしときたい、とか?」

 沈黙が続く。ことの重大さ、敵か味方か分からないが、現代の技術に対して相当な知識とスキルを持った“何か“に近づこうとしてることに気がつき始めた。

 しかし、DiBICの利便性からは離れられない。カイルについては通信速度制限解除をもう一度行いたくて仕方がない。

 少しばかり年上のケンが落ち着きを取り戻そうと言った。

 「今日、どこに泊まる予定?家に来なよ。晩ご飯も食べよう。」


 3人はケンの自宅へ向かった。年齢や趣味、ポイントの使い道など、たわいのない話をした。

 ケンはアクションゲームは苦手だが、パズルや謎解きの類が得意だった。謎解きサイトを攻略したり、パズルを自作し公開したりして、ポイントを稼ぐこともあると言う。

 「まぁ小遣い稼ぎだけどね。ポイントを稼いでも別にすることないし。情報量が増えるかと思ってDiBICを受けたんだ。で、考えてたんだけど、家でDiBQの話をするとヤバいだろ?プライバシー情報とは言え、家では監視されてるわけだ。だから、別の言い方をしないか?Qbidとか?ちょっと捻りが無いけど、まぁ良いかな笑?」

 ケンの自宅で晩ご飯を食べた。

 「さて、Qbidの目的はなんなんだろうね?」

 ケンは切り出した。カイルが続く。

 「俺は記憶を無くしている間に何が自分に起きてるのか?を知りたいんです。頭も体もぼーっとしてしまうし。DiBICについては通信速度のことで言えた立場では無いけど、何か悪いことしてんじゃないか、人に迷惑かけてんじゃないか、って不安なんすよ。」

 「まず、それだね。仲間は何か知らないか、聞いてみたいんだけどなぁ。俺の仲間は5人居たんだけど、2人が記憶を無くしたから…あとは…マットかローズか。今の時間なら2人とも大抵家に居るだろ。」

 すぐに連絡を取り始めた。同時回線だ。

 「マット、ローズ、今、大丈夫か?」

 「どうしたんですか?急に。」

 「ええ良いわよ。」

 マットは丁寧な口調だった。ローズは女性だ。

 「急で悪いんだけど、明日の昼に直接会えないか?」

 「珍しいわね。でも、あの話なら出来ないわ。」

 「そうですよ、僕からも無理ですよ。」

 さすがDiBQを攻略しただけあって察しが良い。

 「いや、まぁあの話に絡むんだけどさ。あの2人について聞きたいんだ。」

 「ロバートとジムの?」

 「そう、アイツらの。」

 「あれの記憶だけが無い、ってのが僕も気になってます。本人達はケロっとしてますけど。」

 「そうなのよ。心配なのよね。それとなく伝えようにも伝えられないし。」

 「頼むよ。ところでお前ら、疲れが溜まってないか?甘いもんでも奢るよ。」

 「何でそれを?分かりました、行きましょう。」

 「何か知ってるわね?私も行くわ。ロバートとジムは良いの?」

 「アイツらは、多分、聞いてもダメだろうな、と思ってる。とりあえず、明日、いつもの場所に11時でどうかな?」

 「了解しました。」

 「分かったわ。」

 「じゃ、よろしくな。」


 翌日、10時55分に、昨日と同じオープンカフェの同じ席に着いた。

 マットとローズも10時55分に着いた。“全員が5分前行動をする。真面目なチームだな。“デビットは思った。

 「やあ。」

 「ども。」

 「ハーイ。」

 「この2人はカイルとデビット。」

 「はじめまして。」

 「こんにちは。」

 「で、こっちがマットで、こっちがローズ。なんか疲れた顔してるけど大丈夫か?」

 「まぁね。何か疲れてるわ。」

 マットはクリームソーダを、ローズはネクターを頼んだ。どちらもかなり甘い。

 「カイルとデビットが、今回、お前らを呼んだ理由だ。いきなりだけど、ネットに繋がる端末は切ってくれ。」

 全員がそれぞれのデバイスをオフにした。

 「何があったってわけ?」

 ローズが聞いた。カイルが話始めた。DiBQのこと、意識を失い映像にも細工され何をしたのか分からないこと、ケンまで辿り着いた経緯。DiBQのことは念のためQbidと呼ぶことも話した。

 「なるほどですね。とりあえずネットに繋がってないと大丈夫そう、ってことですね。」

 「ちなみにお二人は意識を喪失したことは?」

 「実は…僕は意識を失ったことがあります。2日間ほどが何回かです。その時は疲れが溜まってたのかな?程度で特に何も思わなかったんですが。」

 「はぁ。」ローズは溜息をした。

 「私もあるわ。2日間ほどが何回か。」

 「日付は分かるか?画像を確認してみたい。」

 「…仕方ないわね。直近は3日前よ。」

 「僕はいつだったか、正確に覚えてません。」

 「私、プライベートな画像だから、見せたくないんだけど。1度、確認させて。」

 ローズはデバイスをオンにし、自宅のPCに繋ぎ、画像を確認し始めた。

 しばらく時間が経った。

 「出来たわ。3日前の意識を失う前後の画像よ。」

 各自、それぞれのデバイスをオンにし、共有された画像を見た。

 「画像からは何も変化は分からないね。何か思い出さないか?」

 「そういえば…ストックしていたチョコレートが減っていたような気がするわ。」

 「僕も食べた覚えがないバナナの皮が捨てられていました!」

 「カイルは?」

 「俺は…やっぱり思い出せないっす。靴が動いてたんで、何かはしたんでしょうけど。」

 「やっぱり詳細は不明か…。とにかく、高カロリーで甘いものを摂取する、外に出ている可能性がある、ってことか。」

 画像をじっと見ていたデビットが言った。

 「ローズさんの部屋のカーテン、動いてません?」

 「確かに。ベランダから外に出たっぽいね。」

 「ベランダには防犯用のカメラがあるわ。それも確認してみましょう。」

 該当の日付のベランダのカメラ画像も確認した。ネットに繋がっているため、やはり編集されていた。

 「やっぱり何も写ってないわね。」

 「周辺の部屋のカメラもダメだよな。」

 「多分、画像検索して、移動手段がハッキリと写っている画像は全て編集されているんだと思います。」

 「あの…」

 デビットが話し始めた。

 「俺だけDiBIC受けてなくって、アナログってことを考えたんですけど、フィルムカメラが趣味の人って近所に居ませんか?ネットの繋がってるストレージの画像は編集されるとすると、アナログのカメラなら何か残ってそうじゃないですか?」

 「なるほど…。探してみる?」

 フィルムカメラ愛好家がいないでもない。さっそく、“フィルムカメラ“で検索する。

 「この街にもフィルムカメラ愛好家が数人居ますね。お互い、連絡も取り合ってグループを作ってるみたいです。」

 「ローズの家の近くには?」

 「1人だけ。キースって女性ですね。」

 「あ、彼女なら知ってるわ。近所だし女性だし。聞いてみるわね。」

 ローズがこれまたすぐに連絡を取る。着信履歴は残るし、迷惑メールや迷惑電話も無いので、簡単に連絡を取るマインドとなっている。また先進的な教育により、人生をより豊かに生きるために、ポジティブで感謝の念を持った意識付けがなされているため、行動力も高くなっている。

 「はーい、キース。今良い?」

 「あらローズ。どうしたの?」

 「3日前に写真とか撮ってない?」

 「3日前?ごめんなさい。撮ってないわ。」

 「そう…。急にごめんなさいね。」

 「ううん。でも、どうして?」

 「いえその、飛行機とか見なかったかな?って。夜に。」

 「え?飛行機?珍しいわね、移動する人がいるの!?あっ!そういえば、星空撮影が趣味の友達が居るから聞いてみようか?

 もしもーし、ティム?3日前、星空の写真撮らなかった?」

 急にティムが繋げられる。

 「おお、キース。3日前?曇り空でダメだったよ。なんで?」

 「飛行機探してる友達が居てね。3日前、夜に飛んでるかも?って。で、夜空なら星空のティムが見てないかな?って。」

 「飛行機?!珍しいな。あー、飛行機好きのヒューイは?」

 「あーヒューイね。聞いてみるわ、ありがと。」

 「いやいや。それより今度また動物の写真見せてくれよ。」

 「良いわよ!またね。」

 今度はヒューイだ。

 「ヒューイ。3日前、飛行機見なかった?」

 「あー、見てたよ。何時頃?定期の貨物便?宅配便?」

 「違う違う。個人用のやつ。夜らしいんだけど。」

 「それなら見たよ。」

 「えっ!ホント!?」

 ローズから声が出た。

 「キース?誰か一緒?」

 「ええ。私の友達がね。」

 「女の子?今度、紹介してよー(笑)」

 「本人に聞いてみるわ(笑)。」

 ヒューイが話を続ける。

 「でもさ、最近、個人用飛行機が割と飛んでるんだよね。他の街でも増えてる、って。以前は珍しかったんだけどね。だから、あんまり写真が無いんだよね。」

 「他の街も?」

 「うん。飛行機仲間に聞いてみようか?」

 「ちょっと待って。」

 キースが一旦ヒューイとの音声をオフにし、ローズに聞いた。

 「ローズ、どうする?」

 「できればお願いしたいわ。」

 「オケ。」

 ヒューイの回線をオンにする。

 「あー、ヒューイ?お願いできる?」

 「良いよ。そうだな…1週間待って。」

 「ありがとう!お願いね。」

 「退屈してるし、良いよ。ちゃんと友達、紹介してよね(笑)。」

 ヒューイは冗談交じりに言って切った。

 「キース、ありがとう。」

 「良いわよ。でも、なんなの?」

 「うーん、なんて言えば良いのかしら?ネット回線だと話しにくいのよ。…来週、ヒューイからの連絡の時にどうかしら?」

 「気になるけど、仕方ないわね。」

 「ごめんなさい、キース。お願いね。」

 「まぁ近所だし、今からでも良いけど。」

 ローズは目の前の仲間と目を合わせた。全員、問題なさそうだ。

 「ホント?今、オープンカフェでネット仲間と集まってるの。そういうの大丈夫?」

 「うんうん、問題ないわ。すぐに行くわ。」


 10分後、キースがオープンカフェにやってきた。

 簡単な自己紹介と経緯を説明した。

 「ホントにそんなことあるの?」

 キースは驚いた。キースはDiBICを受けていない。

 「DiBIC、興味あったんだけどなぁ。ちょっと怖いわね。」

 ローズが答える。

 「すっごく便利なんだけどね。怖いけど、私はもう離れられないわ。」

 DiBICを受けてる他の3人も頷いた。

 キースが話す。

 「私は趣味で野生生物の写真を撮ってるんだけど、彼らって結局“種の存続“というか、“自分の遺伝子を残す“ことにかけてるわけ。特に虫とかはプログラムされてるんじゃないか?ってくらいの行動をするの。意思は無いはずだから、“こういう場合はこうする“って、まるでif文みたいな。長い生命の歴史の中で、そういう行動を取れた遺伝子を持ったやつだけが、わずかに生存確率が高かっただけで、種を残してきたのかも知れないんだけど、とても不思議なのよね。出来ることなら、脳をハッキングしてどんなことを考えてるのか理解してみたいわ。でね、思ったんだけど、誰かが人間を理解しようとしてるんじゃないか?って。人間て他の動物とホントに違うのよ。他の動物、例えばライオンとか猿とかでもグループを形成して、ボスが居て…って社会を作るけど、弱肉強食で、強いオスだけが優位に遺伝子を残せるのよね。でも、人間にとっての“強い“って、身体的だけでも頭脳だけでも無くて、ちょっと何かに秀でてると、それに魅力を感じる異性もいるわけよ。そしてお互いに選び会えるわけ。雌が強い雄に従うだけじゃなくてさ。こんな動物、理解して統制するのが難しいよね。他の動物は、餌を与えたり、荒っぽいけど痛みで服従させたりも出来るけど。じゃ、それはなんなのか?そこが分かんないんだけどね。(笑)」

 カイルが続く。

 「そうなると、人類と同等かそれ以上の知能を持った存在ですかね?宇宙人とか?」

 カイルはオカルトも好きだ。カイルに限らず、多くの人間はオカルトや陰謀論が好きである。ネットリテラシーもしっかり教育されているので、盲信していることはないが、退屈凌ぎやワクワクするため、話半分で興味を持ってしまう。

 ケンが話す。

 「いやまさか。他国の人間が、この国への工作のため、とかなんじゃ?」

 それもありそうだな、とデビットは思った。その時、マットが話し始めた。

 「人工知能じゃないでしょうか?これだけネットワーク上の情報を操作できる、って人工知能くらいではないですか?人類を効率よく管理するために、人類のことを理解しようとしているのかも知れませんよ。」

 「でも、それなら最初から通信速度に制限をかけてDiBICを解禁するかな?」

 「選別してるのでは?DiBQによって、守秘義務を守れ、課題を解決できるような人間を。糖の消費量は一時的に増えますが、選別すれば限定的ですし。」

 そう言われると、もっともらしく聞こえる。しかし、移動はなんのためなんだろう?脳をハッキングして情報を取れば良いはずだ。デビットが聞いた。

 「なんで外出するんですかね?」

 キースが答えた。

 「手足でも欲しいんじゃない?(笑)だって、ほら、人工知能って脳しかないんでしょ?あ、ロボットとセンサはあるか。でも、環境と身体に応じて脳は発達するから、人類を理解するためには、運動もしたかったんじゃない?単に走ったりしてみたかっただけかも知れないけどさ。(笑)」

 「なんにせよ、ヒューイの情報を待とうか。カイルとデビットはどうする?」

 「ホテルの宿泊費も高いですし、一旦帰ろうかと思いますが。」

 「ウチに滞在してても良いよ。この街だってみるところは有るしね。」

とケンが誘ってくれた。デビットが答える。

 「それならしばらくお邪魔させてください。」


 カイルとデビットは、ケンの部屋で生活した。

 この街で有名な料理人の料理を食べたり(もちろん食材からカロリーまで人工知能に管理されている)、歴史的な教会や建物、珍しい景観などを見て回った。

 そらから、ほぼ毎日、マット、ローズ、キースと会って話した。

 ある日、ケンが

「記憶を失った2人、ロバートとジムにも話を聞かせたい。」

と2人を呼んだ。ちょっと歳上の2人とも好青年だった。

 ロバートもジムもDiBQについては何も覚えていなかった。

 「マジかよ、そんなことあるわけないだろ?俺もジムもめちゃくちゃ元気だし、普段通りの生活だし。」

 「でも、お前ら1ヶ月くらい、ネットで何にアクセスしてたか覚えてないんだろ?」

 「おぉ、それな。何かに熱中してたと思うんだけど。履歴を見ると適当なゲームやり込んでたわ(笑)。以前にもやりこんでたし、2回目で楽しかったんだよ。ジムと協力したり対戦しながらやってた履歴もあるからよ。」

 「そうそう、ロバートの言う通り。でも、俺はボケ始めてんじゃないか?と不安になってるけどね。」

 「俺は今日帰ったらQbid試してみるわ。」

 「いや、それはやめとけ。めちゃくちゃハマるぞ…。そして、お前の性格上、また発信しかねない。」

 ケンが諫めた。

 「でもなぁ。そう言われるとますますやりたくなるじゃんね。…分かった、絶対に発信しない。まずはお前らに話すよ。」

 ジムも続く。

 「俺も興味あるわ。ロバートの言うように、俺もやってみてお前らに話すよ。」

 「ホント、お前ら、気を付けろよ。」

 「ところで、何かPCに挿すデバイスって残ってませんか?」

 カイルが聞いた。ロバートが答える。

 「は?なんのこと?」

 「お二人は全クリしたんですよね?」

 「らしいよね(笑)。」

 「そのリワードで、通信速度制限解除できるようになるんですけど、PCに挿すデバイスが送付されるんです。」

 「まぁ多分、行動を乗っ取られてるから、返送か破棄させられてると思うけどね。」

 ローズが答えた。

 「記憶を失った日の前後の郵便履歴とか?ゴミとか?変なものはリサイクルシステムの関係上、捨てられないはずだから、やっぱり返送か。」

 「そのデバイスの送り主は?」

 「Direct Brain Quest Team.,です。」

 企業というものは無いが、グループやチームでサービスを提供することもある。その場合、団体登録を行う。団体の番号及び情報を、個人の場合は社会保障番号を郵便仲介システムに登録する。ウェブ上で送付物の内容を送り主と受領者間で承認すると、物品の送付が可能である。知人同士や登録業者であれば受領者の事前の承認は不要である。知らない者同士であっても、事前に互いに承認し合い、かつ郵便仲介システムが内容確認を行うため危険物の輸送や犯罪に巻き込まれることもない。

 個人情報は重要だが、本人であることを公にした方が信頼関係も築かれ、物事がスムーズに進むことが多い。とにかくオープンであることが重要である。下手に隠すと取引が成り立たない。またオープンにしておくことで、守られることも多い。

 「とりあえず検索してみるか。」

 それぞれの通信端末をオンにし、検索する。

 代表者も住所も検索出来なかった。

 デビットがカイルに言った。

 「良くこんな怪しいところから物が届いたもんだな?承認したのか?」

 「いや、多分、Qbidを始める時に行ったユーザ登録と利用の同意に、送付の同意が含まれてたんだと思う。」

 「そうですよ。リワードの送付の同意についても記載されていましたから。」

 マットが答えた。

 こうなるとまたもや行止まりだ。とりあえず今日は解散だ。


 翌日、また同じ場所に同じメンバが集まった。

 ロバートが話し始める。

 「まず、端末を切ってくれ。」

 もうあの話だと分かる。

 「俺、検索出来なかったんだけど。マジで謎だわ。ジムは?」

 「実は俺もダメだった。何かフィルタリングされてるっぽい。」

 「こんなこと出来るのかよ?」

 DiBICをやっていないデビットとキースが検索してみることにした。

 デビットもキースも検索は出来た。もちろんアクセスは出来なかったが。

 その時、キースのデバイスに着信があった。

 「おーい、キース。デバイス切ってた?」

 ヒューイからだった。

 「私もたまにはネットの海から距離を置きたい時もあるのよ。それで?」

 キースがはぐらかした。

 「案外早くに情報がまとまったから共有するね。」

 「ありがとう!でも、ちょっと待って。今、友達と集まってるんだけど、一緒に共有させて。」

 「あぁ良いよ。」

 各人の端末にマップが表示された。目撃された場所と日時、飛行して行った方向である。

 「なんか飛行機仲間に聞いたら、めっちゃ広まってさ。思った以上に情報が集まっちゃって。でさ、何か気付かない?」

 皆がマップを凝視した。

 2地点を中心に円形に分布しているように見える。キースが答える。

 「中心点が2つあるみたいね。」

 「そうそう。でさ中心地点付近を調べたんだよ。そしたら、居住地でもなくてさ、食糧生産地と個人敷地がちらほらある場所で。何があるんだろうね?」

 ジムが何かに気付いたようだ。

 「中心地点から遠いところだと飛行機の向きの矢印はバラバラだけど、近いと中心地点に向かってるように見えるな。」

 デビットが聞いた。

 「重なってる情報は図示できますか?別の日時で同じ場所で目撃された情報です。」

 「分かるよ。ちょっと待って。同日時の情報を一つにして、別の日を別の色にして、重なったら大きな点になるようにすると…」

 皆の端末に新しく編集されたマップが表示された。

 様々な大きさの点が表示された。

 デビットが気付いた。

 「ある大きさ以上の点にはなってなくないですか?」

 マットが受ける。

 「本当ですね。クリアしてから期間が限られてるからではないですか?」

 「いや、日によって色が変えられてるから、スタート日時が違うのが分かる。早くにクリアした奴ほど大きな点になるんじゃないか?」

 そんな中、一際大きな点が目についた。気付いたのは、またデビットだ。こういうのに気付くのが早い。

 「やたら大きな点が一つありますね。しかも、これ、DiBICの開始前からだ!何だこれ?」

 「定期便とかじゃない?」

 「輸送便は外してるはずだよ。」

 ヒューイが答えた。

 隣の居住地だ。

 「行くかな?」

 カイルが呟いた。デビットが答える。

 「行ってどうする?“人を乗っ取ってますか?“って聞けるか?」

 「もっと情報収集が必要だな。」

 ケンが言った。

 「この街に知り合いは?」

 キースが答える。

 「1人心当たりがいるわ。」


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