最終話 腐海
世の怪奇譚の例に
100話目を
仕事部屋のどこからか腐臭がするのだ。元を辿ってもよく分からない。私はあの黒く光るアレが大の苦手だ。故に居間以外で食事をすることはない。そのような腐臭を放つようなものがあるはずがないのだ。
ここか、と辿れば別のところから臭いがする。窓を開け放ち、空気の入れ替えをしても一時しのぎに過ぎず、不快な臭いは続いていた。
そんなある日、鞠絵さんが訪ねてきた。ただ遊びにきただけだったのだが、腐臭の話をすると視てもらえることになった。
部屋に入った彼女は、少し顔をしかめ、
「もしかして、心霊写真やなにか、ここに保存していたりする?」
と聞いていた。
心当たりはもちろんある。相談で寄せられた写真や手紙をひとつの箱にしまっっておいていたのだ。それを出すようにと指示され、取り出した。
「ああ、やっぱりね」
彼女が言うには、腐臭の原因はそれとのこと。しかし、そこからは私には臭いを感じない。
「これね、いろんな念が残ってるから、ちょっとあなたにいたずらをしていたのかもね」
いたずらでそんなことをされては困る。彼女は、その箱を時折日差しの当たる風通しのいいところに置くといいと説明してくれた。負の念というものは、弱いものならその程度で
また、私自身の生活習慣も見直すようにと言われた。これは続けられる自身が全くないが。それが怪奇から身を守る術の一つだとのこと。
負の海に飲まれぬように。腐の海に飲まれぬように、と。
しかし、時には飲まれてみるのも生業的には美味しいと思う、そう言うと鞠絵さんは困ったような顔で笑った。
(終)
腐海 遠野麻子 @Tonoasako
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