第99話 付喪神 前編
「で、これが『例のモノ』なんです」
そう言って山口さんが出してきたのは、かなり放置されていたと思われる日本刀だった。彼の話は以下の通りだ。
山口さんの家には蔵がある。蔵とは言ってもほとんど物置のようなもので、いわゆる「お宝」などといったものはない。少々の古物はあるが、値のつくようなものではなかったとのこと。
ある日、蔵の空気の入れ替えのために朝から扉を開けていたという。しばらくそのままにして家で仕事をしていると、庭から子どもたちが騒いでいる声が聞こえた。始めは特に気にしていなかったが、蔵のものをいたずらしているのではないかと様子を見てみた。山口さんの子どもは三人息子のやんちゃ盛りだったからだ。
すると、なにかを振り回して遊んでいるのが見えた。庭に出て振り回しているものをみると、それは刀だった。といっても、どうやら鞘から刀身が抜けないようで、そのままの状態で遊んでいるようだった。
こんなものがあったのかと少々驚きつつ、流石に子どもの遊びに使うには惜しいと思った山口さんはそれを取り上げ、床の間に飾ることにした。
刀掛けはその日のうちに注文し、翌日にはなかなかに見栄えのするものができたという。
異変に気づいたのはそれから一週間後。子どもたちが刀に向かって拝んでいる。どこか熱心なその姿に少し違和感を抱き、なにをしているのか聞いた。
すると、
「刀の神様にお願いすると、それが叶う」のだと言う。なんのことだか意味がわからなかったが、子どもたちによると刀を見つけた日の夜から、それを持った白髪の老婆の夢をみるようになったそうだ。老婆はニコニコと笑いながら自身を見つけてくれたお礼をしたいから、願い事を言うようにと伝えてきたという。
子どもの言うことなので理解しがたい部分が大半だったが、
「で、なんか叶ったのか」
と山口さんが聞くと、子どもたちは顔を見合わせてニヤニヤと笑い答えない。
その表情からすると、恐らく願いとやらは叶ったのだろう。
子どもの戯言と偶然が重なったのだと特に気にしていなかった山口さんだったが、一ヶ月ほど経った頃にある出来事が起きた。
山口さんの妻の
慌ただしく入院に必要なものを用意し、病院へ届け、また慌ただしく家に戻ってきた。山口さんの仕事は自営業だったため、ある程度の自由が効く。一旦家に帰り、子どもたちの食事の準備をして、また病院へ戻ろうと思ったそうだ。
子どもたちに食事について説明をしようと姿を探すと、彼らはまた刀の前で拝んでいた。
「どうした?」
と山口さんが聞くと、また顔を見合わせて答えない。
「なんなんだ、一体」
少し語気を強めて言うと、長男が
「願いを叶えてもらったから、お礼を言ってたんだもん」
と言う。
長男は小学2年生。まだ幼い言葉を繋げると、昨夜どうやら三人息子は盛大にいたずらをし、智里さんにかなり叱られたということらしい。
叱られた三人は、母親に仕返しをしたいと刀に願ったという。
するとその夜、夢にまた白髪の老婆が出てきて、
「分かった、分かった」
と答えたそうだ。
そして翌日の事故。それを「願いが叶った」と答える息子たちに少々の不気味さを感じつつも、病院に戻る時間が迫っていたため、軽く受け流して家を出た。
(続く)
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