第98話 囁き
ホラーゲームが好きな真也さんは、その日も新しく買ってきたソフトをプレイすることにした。夜にプレイするホラーゲームはなかなかにスリリングだ。彼の好みは和製ホラー。海外のスプラッタ的なものはあまり好みではないとのこと。
プレイをしているうちにある廃屋に入ることになった。中を探索しながらストーリーを進めていく。なんとも言えない湿り気。これこそが彼の好みの雰囲気で、世界観に少しずつのめり込んでいった。
-ねぇ、こっちを向いてよ
ヘッドフォンをつけてプレイしていた左耳から
声を頼りに進めばいいのだろうか。それとも単なる演出なのだろうか。わくわくしながら先を進む。
-ねぇ、気づいてよ
また声が聞こえる。この廃屋のシーンはゲームの中ではチュートリアル的な立ち位置のステージだ。時折幽霊との戦闘があったり、ストーリーに関するアイテムなどを集めていく。声の主はおそらくこの廃屋シーンのクライマックスで分かるのだろうと 真也さんは先への期待に胸を膨らませた。
-どうして気づいてくれないの
再びの声。なにか重要なアイテムを逃しているのだろうか。しかし、この序盤で難しいところにそういったものが隠されているとは考えにくい。恐らく演出だろうとまた進んでいく。
そうこうするうちにこのステージのストーリーも随分と進んでいった。おそらくはもうすぐクライマックス。
真也さんは少々
すっきりした心持ちでヘッドフォンを手に取り、装着しようとした瞬間。
-ねぇってば、どうして気づいてくれないのよ
ヘッドフォンをまだつけていない左耳に囁く声。真也さんは一瞬硬直したあと、そっと視線だけを左に向けた。そこには真っ黒で小柄な影が座っていた。
気がつくと朝になっていたという。どうやら気を失っていたらしい。
後日、そのゲームを最初からプレイしなおしたが、その囁き声は入っていなかったそうだ。
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