第96話 消えた同僚
不動産屋で働いている笹山さんが体験した話。
社長が買い取った、ある物件の内部撮影と空気の入れ替えのために同僚の山口さんと鈴木さんとともに一軒家であるそこへ向かった。
買い取った時点で、壁紙の張替えと畳の入れ替えは済んでいたという。ただ、翌日から店で紹介する予定になっており、内覧時にできるだけよく見えるように細かい部分の清掃ができている確認することになった。もし、不足部分があれば清掃をする。そのため3人で向かったのだそうだ。
中古物件のため、一部家財が残っている。とはいえ、カーテンといった程度のものだが。
現場に着いて家を眺めてみると、外観も整えたのだろう。なかなか良さげな住まいに見える。鍵を開けて中に入った。すると、若干のカビ臭さを感じたそうだ。
中はきれいに整えられているのに、どこかほんのりと僅かな臭い。
確認してみると、どうやらカーテンがその原因のようだった。室内の写真をとるなら、ついでにカーテンを取り外そうということになり、手分けして作業にあたりはじめた。
笹山さんは鈴木さんとともに2階部分を担当することになった。あらかじめ用意した踏み台に乗り、笹山さんがカーテンを外していると、1階から山口さんの声が聞こえた。
「おーい、こっち終わりそうだから先に撮影するからさ、カメラ持ってきてー」
その声に返事をし、部屋の撮影のアングルを検討していた鈴木さんにカメラを持っていくように伝えた。
鈴木さんが階段を小走りで下りていく音を聞きながら、カーテンをすべて外した。
それからしばらく。
「おい、ちょっと」
ふいに後ろから声をかけられる。山口さんだ。
「ん? どした? 終わったか?」
「いや、カメラ持ってきてって言ったのにどうした?」
「あ? 鈴木が今持っていっただろ?」
「んああ? 鈴木、来なかったぞ」
途中でトイレにでも駆け込んだのかと、少し家の中を探したが、彼の姿はどこにもない。玄関には鈴木さんの靴はあり、中にいるのは間違いないと思われる。
「これは……どういうことだ?」
と山口さん。
「裸足で逃げたとか?」
「逃げる理由がないだろうがよ」
「まぁなあ……」
鈴木さんの行方も気になるが、まさか家の中で神隠しなどといった馬鹿げた話があるはずもない。もしかしたら、この家に残されていたサンダルでも履いて買い物にでもいったのだろう、ということになった。
しかし。
いつまで経っても戻ってこない。撮影もカメラがないことにはどうしようもない。
困惑しながら笹山さんがなんとなく押し入れを開けたところ。
「「なんだこれ」」
思わずふたりで声をあげた。
そこには鈴木さんが持っていたカメラが置かれてあった。
一軒家とはいえ、人を見失うような豪邸ではない。強烈な気味の悪さを耐えながら撮影を済ませ、会社に戻っても鈴木さんの姿はなかった。
社長に事情を説明しても、馬鹿な話だと笑われるだけだったという。
しかし、それ以来鈴木さんが出社してくることはなかったそうだ。
後日。
例の物件の買い手が決まり、引っ越してきた。それから数日後、その家の買い手である一家の主人のAさんが鈴木の名札を持って訪ねてきた。
笹山さんの会社では、業務中は首から下げるタイプの名札をつけることになっている。
Aさんによると、彼の娘が荷ほどきをし、押し入れに荷物をしまおうとしたところ、名札が奥に落ちていたのだという。
鈴木さんはそのまま解雇となり、その後どうなったのかはわからないそうだ。
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