第95話 未来からの手紙
子どもの頃、どこかおどおどしがちだった
本を読むことは小学校に入る前から好きだった。物語の中に自身を置き、その世界を楽しむ。それはある意味では「逃げ」だったのかもしれないと、今では思っているそうだ。
そんな朋美さんは、現実世界の物語よりもファンタジー色の強い作品を好んでいた。毎日図書室に通い、少しずつ読む。借りてもいいのだが、そうなると図書室に通う理由が無くなる。そのため、昼休みなどの長い休み時間が楽しみにもなっていた。
毎日図書室に通っているうちに、図書室の教師と親しくなった。本来は「学校司書」と呼ぶということを知ったのはもう少し
まだ若い教師で、朋美さんの好みを把握し、様々な本を勧めてくれた。時には現実的な書籍を勧めてくることもあったが、やはりそれは断っていたという。
そんな日々を送るうちに、朋美さんは大人になったら学校司書になりたいと思うようになった。たくさんの本。それに包まれ、子どもたちにその世界を教えるその仕事に魅力を感じたのだ。
将来の夢と、毎日の図書室通い。それが朋美さんが登校拒否にならなかった理由といってよかったという。
ある日、今まで読んでいた本を読み終え、他の本を探すことにした。書架の間をうろうろとしていると、以前学校司書から勧められた本を見つけた。朋美さんの好みではない「現実的な」ストーリーの本。ふと気になり手にとってページをめくると、意外と面白そうだったため、それを読むことにした。
そんな休み時間を過ごしていたが、授業の間の短い休憩時間や普段の生活は相変わらず厳しかった。完全に孤立していた朋美さんはあるときは無視され、あるときは言葉の暴力を受ける。身体的な暴力を受けないだけマシだ、とその日々を耐えていた。ただただ無言で。
ある日のこと。いつものように本の続きを読みにいった。ページをめくると、一枚の紙が挟まっていることに気がついた。少し古ぼけた小さな紙。
「なんだろ、これ」
朋美さんは小さく呟いて紙を手にとった。裏返して見てみると、それはなにかメモ書きのようなものだった。
-あなたの夢は、かないます。 15年後の朋美より
紙にはそう書かれていた。意味がわからない。何かのいたずらだろうか。しかし、夢が叶うというその言葉は朋美さんの心に静かに響いた。どこか心強いような。始めは学校司書のいたずらかと思ったが、その本は以前に断っていたもののためそれは考えにくい。もしかしたら、未来の自分からの手紙かもしれないと朋美さんは思ったという。
それからの日々は少しずつ変わっていった。下らないからかいにもおどおどすることはなくなり、時には言い返す。そうすると責められることもあったが、爆発的な怒りをみせると驚かれ、いつしかいじめは減っていった。すっかり無くなる頃には友人もできていたという。
それから15年。学校司書となった朋美さんは春から母校に勤務することになったという。そして、あの本にあの時以来ずっと手元に残しておいたメモを挟むつもりだとのことだ。
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