第94話 ダムの底から

 とあるダムの近くに廃墟があると聞き、達也さんは友人の直人さんと透さんとともに探索にでかけた。仮にRダムとする。案外あっさりとたどり着き、探索を開始した。

 張り切って出かけたものの、たどり着いた廃墟は古びた住宅で「探検」は楽しめそうにないとがっかりしたという。とはいえ、ここまできたのだからと、中にはいった。


 元の住人は必要なものだけ持ち出し、残りは置いていったのだろう。中は家具が少し残っていたりする程度だった。しばらく中を歩いていると、透さんがなにかを見つけた。

「お。なんかビデオカメラあるぜ」

 その声に惹かれて彼が指した先をみると、ビデオカメラが転がっていた。古びた廃墟には似つかわしくない、比較的最近のものと見られるそれ。

「なんだこれ。誰か忘れていったのか?」

 と直人さん。

「たーとーえーばぁ。なんか怖ぇえものに出会って逃げて落としたんだったりして!」 

 と透さんがおどけて言うと、みなその口調につられて笑ってしまったという。


 ビデオカメラを手に取った直人さんが

「あ、これ、俺が前に使ってたのと同じやつだ」

 と言い出した。父親が使っていたものをお下がりでもらったものと同じらしい。

「へぇ、周辺機器なんかも残ってる?」

 そう達也さんが問うと、残っているとのこと。

 そうなると話は早い。持ち帰って中身を見てみることにした。


 直人さんの家に集まり、カメラをテレビに接続して視聴を開始する。

 どうやら村祭りの様子が撮影されているようだ。映像はしばらく人々の賑わいを捉えている。何度か映り込むイベント用テントに書かれた文字から、この祭りの舞台はM村というところのようだ。

 祭りのクライマックスかと思われる神事が始まったようだ。

 少し高い位置にある舞台で巫女が舞う。雅楽に合わせたその神楽は少し激しく、どこか狂気じみたものを感じたとのこと。

 時折映される人々の顔はどこか陶然としていて、巫女の舞に魅了されているようだったそうだ。映像は巫女の舞だけでなく、周囲の風景も捉えており、なかなかに見応えがあった。


 映像は神楽が終わったところで切れていた。

「いやぁ、結構面白かったな」

 と達也さんが若干興奮気味に言うと、直人さんが少し考え込んでから言った。

「いや、これおかしいよ」

 その言葉の意図を問うと

「これさ、このカメラに入ってる映像だよね」

 と彼は固まった顔で答える。

「そりゃそうだけど、なんか変か?」

 と透さん。

 直人さんが説明したのは以下の通り。

 神楽の舞。それと人々や周囲の風景を捉えた映像。そこには大きな違和感があるという。舞や他の風景を映すには、移動する必要がある。しかし、映像は一度も移動する気配はなく、様々なものを捉えているという。

「ん? それがどうおかしいんだ?」

 と達也さんは尋ねた。

「いや、これさ。後ろに流れてる……曲っていうのかな。これはずっと続いているだろう? なのにこれだけ色々な位置からの映像があるってことは本当ならいくつかのカメラで撮影したものが編集されてる、とかしかあり得ないんだよね。でも、これはこのカメラの映像だろ?」


 その言葉を受け、映像をもう一度確認すると、やはり彼の言う通りだった。

「これは……なんだ?」

 達也さんは戸惑った。

 映像を見ながらスマートフォンをいじっていた透さんが声をあげた。

「あ。 M村ってRダムの底に沈んだ村なんだって」

「へえ、じゃあだれかが記念に撮ったやつ、とかかな。それにしてもおかしいけどさ」

 と達也さんが答えると、直人さんがそれを否定した。

 Rダムの建設が始まったのは30年前のこと。ビデオカメラの販売は10年前からでどう考えても計算が合わないそうだ。

 映像がダムの底からやってきたとでもいうのだろうか。

 

 あらゆる違和感に不気味に思った達也さんたちは、そのカメラを処分することにしたという。

 

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