第92話 裏ピース
亜佑美さんが友人の智子さん、恵子さんとイギリスへ旅行にいったときのこと。高校時代からの付き合いで、社会人となった今も彼女たちとは交流がある。
親しい友人との旅行は心置きなく過ごせ、予定通りの日程で旅を楽しんでいたそうだ。実は亜佑美さんにとっては、それが初めての海外旅行。日常とは違う風景に心が踊ったという。
唯一の誤算は、酒だ。亜佑美さんは小柄な方で、どうやら現地の人にとっては子どもにみえるらしく、度々年齢を確認された。
「もう、やんなっちゃうよぉ」
亜佑美さんがそうぼやくと、みなクスクス笑いながら慰めてくれたとのこと。
パブで酒を楽しみながら、時折各々が持ってきたデジタルカメラで写真を取りあう。そんな時間も楽しく、ホテルに戻る頃にはみな上機嫌だった。
部屋は3人部屋を確保できた。帰り道で買ってきたミネラルウォーターを飲みながら、亜佑美さんは今日撮った写真をデジタルカメラで眺めた。
すると、写真のうち何枚かで智子さんが裏ピースをしていることに気がついた。ピースサインを自身の顔に向けてするポーズだ。
これはこの地ではマナー違反。思わず智子さんをたしなめると、
「え、私、そんなことしてないわよ。マナー違反だって知ってるし」
と彼女は答える。
写真をみせても、心当たりがないと
「えぇ……どういうこと……」
と声をあげたのは智子さん。彼女によると、彼女のカメラに写っている恵子さんが裏ピースをしているそうだ。そんな話を聞きながら恵子さんも写真を確認する。すると、今度は彼女のカメラに入っている写真では、亜佑美さんが裏ピースをしているとのこと。
互いにそんなことをした記憶はないと話したが、しっかりと残っている画像。
どうにも不気味で、そのパブで撮った写真はすべて消した。
その後はなんの異常もなく、あれはなんだったのか、今でも分からないそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます