第88話 跡地

 友人の佐伯さんから、私はある相談を受けた。なんでも住んでいるアパートがおかしいとのこと。住人たちのうち半数ほどが怪我や病気などに遭っている。部屋は南向きの光が入る部屋のはずなのにどこか薄暗さを感じて気味が悪いそうだ。

 佐伯さんは実はその物件は内覧していない。新しくできたアパートで、立地もよく部屋の図面をみてもよさそうだったため、完成前に契約をしたそうだ。

 アパートの住人募集は建設が終盤に差し掛かってから行われていたため、他の住人も同様だったという。


 どこかおかしいのではないか。不安を覚えた住人が大家に問い合わせるも、当然ながら新築のため事故物件などではなく、気のせいだろうの一言で片付けられていたという。

 住人たちはみな気味悪がっていたが、その現象が偶然とも言い切れず引っ越すことを躊躇ためらっていた。大家の言う通り「気のせい」かもしれないし、引っ越してきたばかりで物入りなのに更に転居するなど無駄使いは控えたい」といったところだったとのこと。


 そこで、霊能者に顔が利く私に佐伯さんが相談してきた、というわけだ。

 私は知人の鞠絵さんを佐伯さんに紹介し、ともに現地に向かった。明るい雰囲気の漂う町。その一角にできた、新しいアパート。隣には神社があった。

 一帯の風景を見て、鞠絵さんがため息をついた。

「やっぱりねぇ……ここ、ダメだわ」

 どういうことかと問うと、

「ここね、元々は隣の神社の敷地だったみたいなのよ。このアパートが建つ前の地図を確認したんだけど、池があったみたいで」

「ヤバいんですか」

「それはもう。多分池のほとりほこらがあったと思うの。一応、移設したみたいだけど、中身はまだ元の場所にいるみたいね」

「お願いして移動してもらうとか……」

「無理。神様系はね……下手に触るとこっちが危ないから……」

 私達の会話を聞いていた佐伯さんが不安げな顔つきで鞠絵さんに尋ねた。

「では、他になにか方法は?」

「んー……ここの屋上に祠を建て直すとかなんてのもアリだけど、ちゃんとやらないといけないし、その後のおまつりもしっかりやらないといけないから、私が口を出せることではないわ」

 佐伯さんから聞くと、ここの大家というのは隣の神社の宮司らしい。先代から受け継ぎ、神職として働くようになったとのこと。しかし、先代が亡くなったあとから少し欲がでたのか、敷地の一部にアパートを作ることにしたそうだ。


「怒ってるの、神様。それはそうでしょう。自分の住処すみかに勝手に家を建てられて。そこでみんな生活しているわけだから、ご不浄なんかもあるだろうし」

「ご不浄?」

 私と佐伯さんは同時に声がでた。

「おトイレとか……あとは、まぁ、ね」

 と鞠絵さんは口ごもる。恐らく性行為のことなどを言いたいのだろう。

 

 結局、鞠絵さんは何もできないと告げ、私たちはそこを去った。

 後で聞いた話によると住人たちが結託し、全員の契約期限前の退去を認めるか屋上に祠を作るか選択するように大家に訴えたそうだ。

 結果、屋上に祠を建てることとなり、大家が毎日の世話をすることになったという。

 それを聞いた鞠絵さんは

「ちゃんとやってくれるといいんだけどねぇ……」

 と不安そうに呟いた。


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