第84話 覗く者

 友哉さんが、友人の英明さんと真也さんと共にある廃病院を探検することにしたときの話。そこは隣町にある病院で、ひとつ山を超えた先にある。個人病院のため、さほど大きくはないが、色々といわくがあるらしい。

 なんでも、英明さんが知人から聞いた話によると、あるグループがそこへ探検に行った際、メンバーのひとりが行方不明になったという。

 気味の悪い話ではあるが、又聞きというのは不思議なもので、友哉さんたちには余りリアリティのある話に聞こえなかったそうだ。


 三人で車に乗り込み、目的地を目指す。始めは楽しげに会話をしていたが、山道に入った頃から少しずつ無言になっていったとのこと。目指す場所が曰くありのところのせいか、周囲の木々の暗さが、なお不気味に感じる。

 運転していたのは友哉さん。暗い道を走っていたが、ある頃から違和感を覚えたそうだ。

 山を超えて走っている車。そのルートは以前走ったことがあるが、そろそろ下り坂に入っていいはずだ。しかし、いつまで経っても上り坂のままだった。

 そこは、友人ふたりも通ったことのある道。ふたりとも違和感を覚えているようで、その頃には車の中は静まり返っていた。やがて英明さんが、

「なあ、なんかおかしくないか?」

 と沈黙を破った。

「うん、おかしいよな。同じところをぐるぐる回っているような」

 と言ったのは真也さん。彼の言葉こそが、みな感じていたことであり、かつ言い出したくないことだった。

 不穏になってくる車内。

 その時。

「あ」

 英明さんが小さく声をあげた。

「なんだよ」

 と真也さんが問うと

「今、木の間から人がこっちを見ていたような……」

 と彼は答えたそうだ。

 一気に緊張感が漂う。まさか、そんな馬鹿なことはあるはずはない、と一蹴し、そのまま進んでいった。しかし、やはりいつまで経っても同じところを進んでいるような感覚がある。

「あぁあ!!!」

 次に声をあげたのは真也さん。数人がこちらを眺めているのを見たという。英明さんもそれを見たとのことだが、余りにも怖くて声を出せなかったそうだ。

「帰ろうぜ、なんか変だ」

 英明さんがそう言ったが、山道のためUターンがしにくい。

「ああ、どこかでUターンしたいんだがな……」

 確か、普通に進めていれば先に少し楽にUターンできるようなスペースがあったはずなのだが。友哉さんはそう悩みながら車を走らせていた。


 進んでいく先。そこにヘッドライトでぼんやりと照らされた木々の合間から5人ほどの人物とおぼしきものがこちらを見ているのに友哉さんは気が付いた。

「うわぁああ!!」

 あまりに驚いて急ブレーキをかける。

 しん、と静まり返る車内。しかし、直後みなパニック状態に陥ったそうだ。みな、それを見たようだ。

-もう嫌だ、帰ろう。なんとかしよう。

 意見は一致し、友哉さんはなんとか苦労してUターンして、来た道を戻ったそうだ。

 すると、あれほど時間がかかったにも関わらず、ものの20分ほどで、友哉さんたちが暮らす町についたという。

 あの時に起きた現象はなんだったのか、曰くありの病院に関わるものなのか、それは全く分からなかったそうだ。

 

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