第51話 食あたり

 従妹の美香が体調を崩し入院したとのことで、私はお見舞いにいくことにした。お見舞いとなれば花束だろうと、病院近くの花屋で愛らしいそれを作ってもらった。どうやら食が細くなっているとのことだったので、食べ物のたぐいは避けた。

 

 病室に行くと、意外と美香の顔色は良かった。安心した旨を伝えると、美香は

「だいぶ良くなったのよ、最初はもう、貧血かしら。それがひどい感じで」

 と答えた。


 どういった事情で入院するはめになったのか尋ねたところ

「んー……食あたり? みたいな? 感じかしら」

 とどこか煮え切らない答えを返してきた。

 彼女は元々若干ふくよかな体型だった。それが少し痩せた感じだったが不健康には見えない。そこまで回復したということだろう。


 ベッド脇に壺が置かれていたので、持参した花束をそこに生けようかとすると美香に制された。

「それはそのままにしておいて。花瓶ならナースステーションで借りられるから」

 とのこと。

 若干の違和感を覚えつつ、彼女の言うとおりにした。

 ふたつの瓶が置かれているさまはどこか可笑しいものがあったが、特に咎めることでもない。

 しばらく話をして、帰ることにした。

 すると美香が

「ねぇ、その壺に息を吐いてみてくれない?」

 と言った。花束が生けられていないほうの壺だ。

「へ? どういうこと?」

「んー……大した理由はないんだけど、お願い」

 再びの違和感。しかし、彼女の要望に応えた。ベッドから立ち去ろうとする私に美香が

「んふ……ごちそうさま」

 と小さな声でつぶやいた。私はそれを聞こえなかったふりをしてそのまま帰った。

 

 さて。

 私はこの話にどこか聞き覚えがあるような気がするのだが、果たしてどうすればいいのだろうか。

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