第48話 愛される(?)者
瑞希さんの従兄弟の翔太さんは異常に悪運が強いとのこと。なにかと事件や災害などをすんでのところで回避している。
例えば、旅行に行って帰ってきた日に、訪問先で滞在していたホテルが火災で全焼し、死者が多数発生したといったのがつい最近のこと。彼の周りでは自然災害や人災など無関係に発生し、しかし本人は巻き込まれない。
その不可思議さに親戚の多くは神様に愛されているのだと言っているそうだ。しかし、彼自身は単なる偶然だと思っており、毎回事が起きると
「いやぁ……危なかったなぁ」
と、深刻そうな顔で報道を見ているそうだ。
瑞希さん自身も彼と行動を共にして危ない目に遭いそうになったことがあった。翔太さんと車で出かけたときのこと。雑談に夢中になっていると彼が運転を誤り、側溝に片車輪を落としてしまった。
ガクン、という揺れは衝撃だったが、さほどスピードが出ていなかったので怪我は全くしなかった。
近くに住む友人の手を借り、車を元に戻して目的地に向かうとなにやら渋滞している。どうやら多数の車を巻き込む多重事故が起きたらしい。
周りの野次馬たちの話を聞く限りでは、側溝で落ちずにそのまま進んでいれば巻き込まれていた恐れが高い時間に事故は起きたようだった。
このように彼の悪運の強さには、トラブルによって回避されることも多々ある。それが故に彼自身は親戚が言うように「神様に愛されている」という自覚はない。やたらとトラブルがあるけれど、結果的にもっと大きいトラブルに巻き込まれなくて一安心といった心持ちのようだという。
しかし、その些細なトラブルがいつか大きな事故に繋がるのではないか、と瑞希さんは少しの不安を感じていた。翔太さんが快活にトラブルの話をする度にハラハラさせられる。
親戚の中に、霊感をもち、それを生業とはしていないものの相談事は受け付けている鞠絵という伯母がいた。瑞希さんはそういったことには興味がなかったのだが、ある日あまりの不安に相談をしてみた。
そこで返ってきた答えは瑞希さんの予想を超えるものだった。
「あぁ、翔太くんねぇ……」
と、苦笑い。
「なにか、問題があったりするんですか?」
「んーとね、あの子、守護霊がいないのよ」
「普通はいるものなんですか?」
「みんないるわよ、大体3人くらいかしら」
「……いなくても大丈夫なんです?」
そこで鞠絵さんはまた苦笑い。
「あの子ねぇ、多分前世がなんだかやたらと強いなにかだったかもしれないわねぇ」
「どんなの?」
「私は前世は見えないからなんとも言えないけど……ほら、あの子のお爺ちゃん、この間亡くなったじゃない?」
「ええ」
「守護がいないから、心配したみたいで後ろにつこうとしたんだけど、弾かれて飛んでっちゃったのよね。私、笑うに笑えなくて」
「ぇえええぇ……」
その後の会話を要約すると次のようになる。
彼はなにかよく分からないが強い存在である模様。天界、いわゆる天国の神様は彼がそちらにいくことを怖がっている。一方、地獄の神様も彼がくるのを嫌がっている。故に互いに押し付け合った結果、トラブルに巻き込まれるものの回避できているというわけだ。
「じゃあ」
瑞希さんは非常に気になったことを最後に尋ねた。
「翔太くんがいつか死んだらどうなるんですか?」
「んー……分からないけど、彼自身がこの一帯を守る神様とかになっちゃうんじゃないかしらね。どこにもいけないから」
「それって、かわいそうなこと?」
「彼のことだから、楽しく守ってくれるんじゃない? その先のことは分からないわ」
神様に愛されていると言われていた彼が、実は怖がられているとは意外な話だった。
ただし、と鞠絵さんは最後に締めくくった。
彼が自身の豪運さに奢り、それを利用するようになるとどちらかの神様が覚悟を決めて迎え入れるだろうと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます