第43話 10年越しの呪詛返し
美香さんは30歳。いわゆるアラサーという歳になったからだろうか。少し体調に変化が出てきたという。なんとなく疲れやすい。なんとなくメイクのノリが今までと違う。年齢のせいにするのは
しかし、体調は少しずつ悪くなっていった。明らかに疲れやすく、仕事のミスも増えてきた。これはおかしいのではないだろうか。いくら20代を過ぎたからといって、これほどまでに体調を崩すものだろうか。
美香さんは一抹の不安を覚え、病院に行った。しかし、結果はなんの異常もないという。医師は精神的なものかも、と言うがそれにも全く心当たりもない。職場環境もよく、友人も多い。精神的には恵まれているといったほうがいいだろう、それが美香さんの判断だった。
そんな美香さんの話を聞いた友人の千歌が、霊能者に視てもらわないかと言ってきた。なんとも非現実な話。
「霊能者ねぇ……あたし、そういうの信じてないんだけど」
「まぁ、美香ちゃんはそういうタイプなの知ってるし。でも試しにってのもあるじゃない?」
「んー、でもそういうのってすごーく高いんでしょ」
「あぁ、その霊能者って従妹なんだけどね。なんだか『修行中』らしくてお金が取れないんだって」
「『取れない』?」
「うん、なんていったらいいのかな。取ろうと思えば取れるんだけど、対価を得ようとしたら『仕事』が上手くいかなくなるんだって」
「それ、どうやって生活してるのよ」
「OLさんだよ。休みの日に除霊とかやってるみたい」
無料と聞いた美香さんは、興味本位もあってそれを試してみることにした。
約束の週末。千歌さんと美香さんは、従妹が待つというファミリーレストランに向かった。
着座し、軽く自己紹介と挨拶。美香さんの近況は既に彼女には伝わっているようだった。
「ありがと、千歌ちゃん。ちょっとプライベートな話になるから、千歌ちゃんは帰ってもらってもいいかな」
と友人の従妹。
「むー……。気になるけどー。分かったよ」
注文したコーヒーをぐいっと飲み、軽く手を振って彼女は帰っていった。
「彼女がいると、困る話なんですか?」
不安と不審感。美香さんは少し戸惑った。
「すごく……言いにくいことなんですけど。10年ほど前に、誰かを恨んだこと、ないですか?」
「え……」
その言葉にドキリ、とした。
覚えがあったからだ。当時、付き合っていた男性を、別の女に奪われた。その男に対しても奪った女に対しても激しい怒りを覚えた。それは恨みにも似た感情だった。眠れない夜を何度過ごしたか、今となっては覚えていない。
その話を伝えると、彼女は
「あなたのその感情が呪詛となって、そのふたりに攻撃していたんです。それが呪詛返しとなって、あなたに返ってきていたのです」
「私はそんなつもりは……」
「ですよね、そんな風に恨んじゃうの分かります。でも、無意識下の呪詛って結構怖いんです」
呪詛。普段触れたことのない言葉に、美香さんは寒気を覚えた。
「男性の方。去年事故でお亡くなりになってますね」
「!!……あたしのせいですか」
「そうだとも、そうでないとも。どちらとでも言えます。あなたの呪詛で、彼の守りが弱ってしまったんです。彼は元々事故に遭う天命にありました。それを守っていたのが彼の守護霊だったんですけれどね」
「私はどうすれば……?」
「感謝を」
「感謝?」
「生きていることへの感謝。誰かになにかしていただいた時に心からの感謝を。丁寧に生きていけば、あなたに返ってきた呪詛はそのうち消えていくかと思います」
そこで話は終わり、店をあとにすることにした。
感謝として彼女の飲み物代を払おうとすると、
「そういうの頂いちゃうと、しばらく仕事ができなくなっちゃうんです」
彼女はそう言って笑った。
美香さんは「恨んでいた」男性と共通の友人と久しぶりに連絡をとり、彼の近況についてそれとなく尋ねた。
事故に遭って亡くなったというのは事実だったという。
千歌にはそのことはとても言えず、適当にごまかした。しかし、従妹を紹介してくれた彼女に心からの感謝を述べたのは言うまでもない。
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