第37話 「いえかみさん」

 健太さんは子どもの頃から年に一度、お盆の頃に家族で伯父の家へ訪ねる習慣があった。

 それは無論、法事のため。長男の伯父は、自身の一家を「本家」と言ってはばからない。成人を過ぎた頃には健太さんは「今どきなにが『本家』だ」と思っていた。

 

 伯父は中規模には至らないが小規模でもない程度の建設会社を経営している。「本家」は昔から金回りがいい。というか、金運がいいと言ったほうが正しいかもしれない。

 ここぞ、というときに大口の注文が入り大金がはいる。手を引いた取引先などは、資金繰りが危ういのを隠していたと後に知ったりすることもあるという。

 かと言って大繁盛するわけでもなく、言ってみれば「調度いい優越感」に浸れる程度の金運だった。


 元々調子のいい伯父は、祖父が亡くなり事業を継いだ後、以前に増して図に乗り出し、やがて傲慢な振る舞いをみせるようになってきた。

 

 祖父の三回忌のために伯父の家へ行ったときのことだ。父と伯父が酒を酌み交わしているのを尻目に早々に床につくことにした。

 与えられた部屋は個室。「部屋はたくさんあるからな」というのが伯父の言い分。

 寝るには早い時間帯だったため、うつぶせになってスマートフォンをいじっていた。

 

 ふと。

 視線の右側からなにかが現れた。

 なんだろうか、と見てみると、それは小人だった。

 それも何人もが行列をなして歩いている。黒い着物を着て、包みを抱えている者もいる。

 部屋が明るいこともあるのだろうが、なぜか不思議と怖くなかった。

「おい、お前ら一体なんだ?」

 健太さんは思わず声をかけた。 

 すると、行列は一旦止まり、先頭の者が答えた。

「いえかみさんが亡くなりなさったけぇ、お弔いに参るんです」

「いえかみさん?」

「へぇ、突然うなりましたけぇ、みなで参るんです」

 意味がわからなかった。「いえかみさん」ってなんだ。

 彼らは立ち去った。


-寝よう。


 健太さんはそう思い、電気を消して寝た。


 それから数ヶ月。

 伯父の事業は突然上手くいかなくなった。

 彼は傲慢ではあるが、先見の明はある。事態が深刻になる前に事業を縮小し、金にできるものは金に変えた。


 健太さんはその状況をみて思ったという。

 あの小人が言った「いえかみ」とは「家神」だったのではないかと。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る