第29話 占い

 島田さんが大学生だった頃の話。


 当時、島田さんは写真部に入っていた。暇を見つけてはカメラを片手に学内の写真を撮り、気が向けば少し遠出もする。

 自分がイメージしたとおりの写真。それが現像液の中でじわじわと浮かび上がってくる瞬間が、島田さんは楽しかったそうだ。

 

 ある日のこと。

 大学近所の神社の写真を撮りにいき、大学に戻ってきたときには14時を過ぎていた。神社に向かったのは10時ごろ。もうおなかはペコペコだ。なにか食べようかと学生食堂に向かった。ラーメンとチャーハンをカウンターで受け取り、どこかの席につこうとした。


 この時間なので席は選び放題だ。

 ふと並んだテーブルの一角に目をやると、写真部の後輩の女子数名がスマートフォンを手に笑いながら話している。

 島田さんはその席へ向かった。

「あ、島田先輩、撮影の帰りですかぁ~」

 一年生の真理が言う。

「ああ、ちょっとA神社にね」

 島田さんはそう答えて席に座った。

「あ~!あたし『夫にベランダから突き落とされた』だってぇ~」

 二年の栞がすっとんきょうな声をあげた。

「私の『蚊取り線香の煙にまかれた』よりマシですよ、私の前世、蚊ですよ、蚊!」

 真理が口を尖らせて言った。

 周りの女子たちがその声に大笑いする。

「お前ら、なにやってんだ?」

 島田さんは聞いた。

「今ね、『前世の死因占い』ってのをやってたの。私、どこかのお姫様だったみたいよ」

 そう答えたのは同期の由香里。

「お前らなぁ……前世なんてもんは……」

 島田さんが話そうとすると、栞がすっと手を上げて言った。

「『前世や霊なんて存在しない。心霊写真なんて多重露光でいくらでも作れる』ですよねっ!」

「島田くん、みんな分かっててやってるのよ、なんせこの占いおもしろいから」

 由香里がくすくす笑いながら言った。

「そうなんですよ、なんかやたらと細かくて、同じ死因の人なかなかいないってSNSで話題になってるんです」

 真理はそう言ってスマートフォンの画面を見せた。

「ふーん」

 あまり興味を惹かれることなく、島田さんは軽く受け流したとのこと。


 その夜のこと。

 島田さんはコンビニで買ってきた弁当を食べた後、スナック菓子をつまみにビールを飲んでいた。

 テレビも大して面白い番組をやっておらず、ニュースを見ながら昼間のことを思い出した。

「『前世の死因占い』ねぇ……」

 島田さんは鼻で笑いながらスマートフォンを取り出した。例の占いができるSNSは島田さんもやっている。友人登録をしている由香里のタイムラインを覗くと、その占いの結果がシェアされていた。

「『ある国の王子との結婚式で暗殺された』か。」

 どこかのお姫様だったみたい、と言った由香里の顔が目に浮かぶ。彼女は少し繊細な雰囲気をまとっていて、なかなか顔立ちが整っている。前世とやらが存在するなら、姫だったというのもどこか頷ける。


 ―「占ってみたい方はこちらをタップ」


 由香里の占い結果の下にそう書かれていた。暇だし余興のつもりでやってみるか、と島田さんはそこをタップした。画面に「読み込み中」との文字が表示される。

「なるほどね、過去の投稿内容なんかからワードを拾ってるんだな」

 島田さんはそう思いながら、結果が表示されるのを待った。


 ―「死因判明。続きはここをタップ」


 画面がそう切り替わった。

 笑えるものが出たらシェアでもしてやるか、そう思いタップしたすぐ後、島田さんの体は硬直した。


 ―「う し ろ の ひ と」


 そこにはそう書かれていた。当然、島田さんは部屋にひとりだ。

 

 それ以来、島田さんはその手の占いはやっていないという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る