第24話 だいじょうぶですか

 香奈枝さんは子供の頃から片付けが苦手だという。小学校の机の中は常にごちゃごちゃ。大切な書類を忘れっぱなしにしていて怒られることもしょっちゅうだった。根が明るいこともあり、特にそれが原因でいじめられることもなく、のびのびと素直に育った。

 

 そんな香奈枝さんの部屋はやっぱり散らかっていた。いわゆる「汚部屋」というやつだ。 散らかってはいるものの、大体のものの場所は把握していて、特に不便はなかった。着替えも別の部屋でしていたので困ったことはない。

 部屋の入り口からベッドにかけてかろうじて隙間(香奈枝さんにしか認識できないが)があり、そこを通ってベッドに向かっているという。


 香奈枝さんは家族と同居している。他の部屋は母が丁寧に整頓していた。 

 そんな母の姿を見ていると「自分には結婚は無理だなぁ」と思う香奈枝さんだった。


 ある夜のこと。普段はそんなことはないのだが、妙に気味の悪い夢を見て真夜中に目が覚めた。んやりとした意識の中、目を開ける。

 すると、ベッドの脇に、髪の長い女が立っていて香奈枝さんを覗き込んでいた。 

 勿論見知らぬ女だ。

「きゃっ」

 香奈枝さんは小さな悲鳴を上げた。女はそんな香奈枝さんを面白がっているかのようににやにやしながら見つめてくる。


――なにこれ、どうしよう


 追い払うものはないか、とこれまた散らかったベッドの脇を探った。手に触れたのは日焼け止めのスプレーだった。

 

――これ……効くかな


 とある消臭剤が効果がある、という噂は聞いたことがある。もしかしたらこれも効くかもしれない。香奈枝さんは震える手でキャップを外し、女に向けて噴射した。


 んぐっ


 奇妙なうめき声を上げて女がたじろいだ。2発目を噴射する。

 女は顔を覆って一歩下がった……と思ったら、床に置きっぱなしの雑誌に足をとられて転倒した。女は座り込んでいる。

「だ、大丈夫ですか?」

 香奈枝さんは思わず訊ねた。相手はおそらく「霊」というやつだろう。そんなもののに「大丈夫ですか」などと、なにを聞いているのだ。口にしてから香奈枝さんは思わず苦笑したという。

 

 女はゆっくりと立ち上がり、ドアへ向けて歩いていった。その間、数度ころびそうになったのは言うまでもない。ドタバタと消えていくその姿はどこかユーモラスで、香奈枝さんは怖さを感じることはなかったそうだ。


 翌朝。

 母が不機嫌そうな顔をして言った。

「あなた、夕べ部屋でドタバタ転んでたでしょ」

「こ、転んでないよ」

「あんなに散らかしてるからそうなるんだからね、ちょっとは片付けなさい」

「転んでないってばー」

「うそ、下まで音が響いてたわよ」

 香奈枝さんはかなりの苦労をしてある程度見れる形に部屋を片付けた。とはいえ、友人を招くほど綺麗ではないが。


 それから1ヵ月後。香奈枝さんの部屋は元通り散らかっているらしい。

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