第11話 「ホラー映画の主人公」

 山岸さんはホラー映画鑑賞が好きだとのこと。週末になるとDVDを借りてきて、部屋で酒を飲みながら楽しむ。時には友人たちと一緒に観ることもあるそうだ。


 ある日。

 山岸さんはその日も友人たちとホラー映画を観ることにした。

 ひとりでドキドキしながら観るのもいいが、友人とワイワイ楽しむのもまたいいものだ。

 映画を観終わった後はみんなで感想を言い合う。

「あそこでさー、普通覗き込む?」

「ないない、俺だったら絶対無理」

 友人たちは笑いながら先ほどの映画の主人公について語っていた。

「ホラー映画、ずいぶん観たけどさ、主人公の弱点って知ってる?」

 と、山岸さん。

「なになに」

「ホラー映画の主人公だって知らないことだよ」

「なーんだよ、それ!」

 友人はげらげらと笑った。

「観てる側はさ、覗いたらやばいって知ってるじゃん」

「そりゃそうだ。やばいBGM流れてるしな」

「だけど彼らは自覚がない」

「まぁ……あったらあったでコメディ映画になっちまうな」


 そんな話をしながら笑いあい、友人たちは終電間際に帰っていった。

 残った酒を飲みながら、テーブルに散らばったつまみの欠片を片付ける。

「あいつら、いつも散らかしっぱなしなんだよなぁ」

 そうぼやきつつも、楽しい時間をすごせたことに満足していた。

 その時。


―コン、コン


 ノックの音が聞こえた。窓からだ。

 風の音かと不思議に思い、窓を見ると、再び音が聞こえた。


―コン、コン、コン


 風の音にしてはリズムが安定している。人為的なもののように感じた。

 山岸さんの部屋は2階だ。

 窓の外はベランダもないし、木の類もない。音がする原因は思いつかない。

「……。」


―コン、コン


 また音がした。

「『ホラー映画の主人公は……』ってね……」

 すこぶる気味が悪いが、音の原因を確認する勇気もなくそのまま座っていた。


―ドン!


 ノックの音が大きくなった。

「やめてくれよ……なんなんだよ、もう……」


―ドン!ドン!ドン!


 更に続く音は最早「ノック」というレベルではない。

「知らない、俺はなにも聞こえてない。なーんにも知らない」

 山岸さんはそう強く考えながら、身を屈めて耳をふさいだ。


 その時だ。ふいに地震が起きた。すこし大きめだ。

 山岸さんは動けずにいた。そこにもたれていた棚の上に置いてあったガラスケースが落ちてきた。それは見事に山岸さんの頭に命中し、額から血が流れた。

 縫うほどの怪我ではなかったが、傷はしばらく残っていた。

 後に聞くと、終電で帰っていった友人たちも地震で足止めをくらって散々だったらしい。


「あの時、覗きにいってたら怪我しなかったと思うんだよね」

 そう語る山岸さんは相変わらずホラー映画を楽しんでいるそうだ。

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