エピローグ

エピローグ



 荷物を持って船着場へ行くと、先客がいた。穂村は、まあわかる。事件が解決したからM市の自宅へ戻るのだ。しかし、でははなんだと言うのか?

 港には場違いな和服姿の美青年が、大きなキャリーケースをさげて立っている。


「……蝶野さん?」

「やあ。ぐうぜんだねぇ。君たち、帰るの? 家はどこ?」

「…………」


 これは、あきらかにだ。

 龍郎は無視して、青蘭とともに波止場にならんだ。


「何、何? そんな知らん顔しないでほしいなぁ。ねえ、青蘭ちゃん。仲よくしよう?」

「言っときますけど、青蘭、男ですからね?」

「そんなの振袖着付けてあげたのはおれだよ? 知ってるよ」

「…………」


 剣崎だけでも持てあましてるのに、なんでこんな美形まで来るというのか。前世でなんか悪いことでもしただろうかと、龍郎は自身の過去に思いをはせる。


 フェリーが来ると、龍郎たちは順番に乗りこんだ。が、蝶野がタラップを渡ろうとすると、急にワラワラと猫たちがよってきて、「まさか出ていくの?」「行かないよね?」と言わんばかりにニャーニャーとさわぎだす。


「ごめんよ。おまえたち。この島の人たちは、みんな猫好きだから、可愛がってくれる。元気でな」

「ニャッ」

「ニャー!」

「ミャア、ミャア」


 まるで猫の合唱団だ。


「ずいぶん、好かれてますね。島に残ってあげたらどうです?」

「だから猫の調教師なんだよ」

「あんなにさみしがってますよ?」

「みんな、大好きだったよ。盆暮れ正月には戻るから」


 猫たちに盛大に手をふって、蝶野も乗りこむ。ついてこなくてもよかったのだが。

 しかし、よく考えれば、タマの霊が蝶野のことを頼んでいった。この男も何かしら龍郎たちと縁があるのかもしれない。


 フェリーが海原にこぎだすと、さわいでいた猫たちの姿が遠くなる。桜満開の猫島ともお別れだ。


「あっ、龍郎さん。桜が」

「ほんとだ。キレイだね」


 青蘭が我を忘れてはしゃぐほど、一瞬、風に散る桜がいっせいに島を染めあげた。


 まだまだ解決しなければならないことは多い。青蘭のカードなどの金銭的なこともだが、何よりも、剣崎との三角関係をできるだけ早く解消しなければ。


 それでも、もうあの島を訪れることはないのだと思うと、少しさみしくなった。


 青蘭との思い出が、また一つ、つみかさねられていく。この新しい世界で。





 外伝1『猫目石の女王』完

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