第58話「伏見夫妻の新婚旅行編•手料理をキミに」

「え、新婚旅行?そんなの知るかよ。ハワイとか行っときゃいいんじゃねーの?」



「うわっ、適当な意見。ハセショ先生ってば冷たい」



いつものバーで、いつもの面子が揃って呑んでいる。

そのメンバーは限竜、翔、そして檜佐木だ。



「え、何、紘太のトコまだ式挙げてないの?」



檜佐木がタコのマリネをフォークで突き刺しつつ顔を上げた。




「そ。いきなりプロポーズされたわけだし、もうただ勢いで入籍だけ済ませた感じ」




「何があったのか知らねーけど、凄い超展開だよな。お前らって」



「でしょ?もうこっちもダメかって思ってたもん。それがまさかの結婚だからね〜。まぁ、人生何があっても不思議じゃないわ…ってそれより新婚旅行だよ。どこ行ったらいいと思う?」



「旅行ってもなぁ…お前はプー太郎だからいいけど、向こうは売れっ子現役アイドルだろ。スケジュールとか大丈夫なのか?」



「あ…忘れてたわ。というかプー太郎は余計なお世話。秋にはちゃんと復帰するから」



「バカだねー。マジでバカ。あれだよ。別に二人でいられるならドコでもいいじゃん。国内でもさ」



「おっ、リア充になったレンレンは何か違うねー」



檜佐木が口笛を吹く。

そう。最近翔にもようやく彼女が出来たのだ。


その相手は限竜の妻が在籍するアイドルグループのトロピカルエースのメンバー、喜多浦陽菜だ。


一番人気の陽菜と正式な交際発表をした後のネットはかなり荒れた。


貢いできたグッズを破壊する者や、誹謗のメール等、様々な反応があった。


しかし今更そんな事で揺らぐ事はない。何せ命まで張った恋なのだ。



「別にそんなじゃない。たださ、ちょっと旅行っていいよなって思った」



「えー、だったら一緒に行っちゃう?ダブル新婚旅行♡」



「いや、行かないし!行くなら別々に行きたいし!その前に僕、結婚してないから新婚旅行違うからな」



「はいはい。独り身に全く忖度しないお二人さん。落ち着いて」




間に挟まれた檜佐木はやれやれと肩をすくめる。


現在絶賛フリーの檜佐木には羨ましい話である。

大体つい数ヶ月前までは三人共フリーだった。

そこでよく独り身の会を開いていたものだ。


それが立て続けに結婚、彼女持ちが出来て、檜佐木には戸惑う事ばかりである。



「あ。そうね。一番のモテ男がどうしたの?いい子いないの?」



「はぁ…。一十センセが女の子紹介してくれるって言うから行ったら、男の娘だった。後で抗議したらセンセも知らなかったんだと。マジウケる〜……シクシク」



「それは何と言ったらいいのか…。つかあの人、感覚が謎過ぎてっから、紹介なんて止めといた方がいいぞ?」



「ううぅっ…可愛い女の子と付き合いたい。レンレン、陽菜ちゃんくれっ」



「やるか!あ、もうそろそろ帰るわ。晩飯作らないとならないんだ」



翔は時計を見ると、席を立った。



「あら、喜多浦ちゃん作ってくれないの?」



「あー、それは勿論。帰ったら晩飯あるの感動だぜ?だけどさ、手料理食べてくれる彼女がいるのも最高なんだよな。飯作りながらいつも思ってた」



「うわっ、ラブラブじゃん。ちなみに今日のメニューは?」




「ひき肉とキャベツがあったからロールキャベツ。今日はホワイトソースで作ってみるつもり」



二人の喉がゴクリと鳴った。




「なぁ、レンレン?俺らもご相伴に……」




「お断りだ。来るなよ!」




翔は逃げるように出口へ駆けて行った。




「紘太、お前のトコは飯あんの?新婚だろ」




「え、カップ麺だけど?更紗は今地方ロケで福島だもん」




「お前、もう少し食に興味持とうぜ」




檜佐木が哀愁たっぷりの顔で肩を抱く。




「何で?カップ麺美味しいじゃない」




限竜は首をしきりに傾げていた。















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