第56話「伏見夫妻の新婚旅行編•プロローグ」

「ねぇ、紘太。あなたって本当のところ、オネエなわけ?」



新婚伏見家の昼食時。

さらさの作ったパスタを食べながら、今日は久しぶりの二人きりの時間だ。



「え?何その今更で不毛な質問」



限竜は早速嫌な顔をする。




「だって気になるじゃない。初めて会った時からあなたずっとあの調子だったし」



「何度も言ってるけど、俺は女の子としか付き合った事ないよ。あれは野崎詩織に合わせる為に作ったキャラクターのようなもの」



限竜は少しうんざりしたように説明を始めた。



「最初に円堂から何が何だかわからないまま、詩織の面倒見るように言われたんだけど、あの子がゴリゴリな男性恐怖症でね。最初は話しかけても相手にしてもらえなかったの」



「あら…」



「それに187㎝もあるから威圧感半端ないし。こりゃ詰んだなって思った。そしたらさ、ちょうどバラエティー番組の収録があって、ゲストがオネエタレントでさ、その人とトークしていたらこれだ!って思ったんだ」



さらさは呆れたような表情でパスタの皿を片付け始める。




「まぁ、最初はぎこちなかったけど、最終的には害のない変な奴って認識に落ち着いて、普通に話せるようになったワケ。で、俺の性的嗜好はノーマルです」



「なるほどねぇ。一人くらいは男が挟まってるのかなって思ったけど、案外普通ね」




限竜がガクンと肘を崩す。




「ちょっと待って。俺に何を期待してるの?ゲイかバイであって欲しかったって事?」



「違うけど。何が物足りないかなーって」



「…あの、全然話が見えてこないんですけど」



するとさらさは限竜の腕に自分の腕を絡ませた。



「あの口調のあんたも結構気に入ってたって事。あなた余所では前の口調で話してるって聞いたから」



「あー…。まぁ、お遊びみたいなものだから。ていうか、アレ気に入ってたの?」



限竜は信じられないと呟く。



「まぁ、最初はねぇ。コレはないわーって思ったけど、今はそれはそれでアリかなって」



「更紗って前から思ってたけど、かなり変わってるね」



「あんたに言われたくないわよ」



さらさは限竜の手をつねった。



「地味に痛っ。そういえばさぁ、よく考えてみると俺たち、交際ゼロ日婚なワケだよね。まぁ、出会いもマチアプだし、何もかもがあり得ないんだけど」



限竜は手を摩りながら、ふと思い出したように笑う。

確かにあの時、さらさはまだ告白もなく、交際すらしていなかった限竜に別れを告げられ、勢いのままプロポーズしたのだ。


今思うと早まったなぁとは思うが、意外にも後悔はない。


あの時は彼を引き留めたいという一心だった。



「そうね。まだお互いの事、確かにそんなに知らないわ。ただあんたは水族館と海、ハンバーグと隅っこが好きな自傷癖のある男って事はわかってる」



「わー…そうやって声に出されるとすげーメンヘラ男子に聞こえるんですけど」



「だってそうじゃない?」



限竜はノソノソとさらさの後ろに回り込み、しがみつくように抱きしめた。




「とりあえず、今度の休み、デートしよ」



「ふふっ。そこからなの?」




「そ。もう公表してんだから、普通にデート楽しもう?」



「まぁ、そうね。じゃあスケジュール確認しておくわね」




そう言ってさらさは限竜に軽いキスを落とすと、自室へ姿を消した。




「……デートかぁ。泊まりもあるかな。あ、ちょっと探してみようかな」



限竜はワクワクしながらスマホを手に取った。



「泊まりとなると…これって新婚旅行だよね。ヤバっ。何か楽しくなってきた♡」








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