第54話「最終章・新しい未来へ」

「ふぅ…。私、本当にあいつと結婚したんだろうか……」



先週、SNSで電撃的に道明寺限竜との結婚報告をしてから一週間。

マスコミからの取材や、事務所の対応等、本当に色々大変だった。

それをさらさは一つ一つ真摯に対応していった。

それは彼と人生を共にする為に必要な事だった。



しかしあれから腹立たしい事に、限竜からは何も連絡はない。



一応婚姻届は彼の実家で書き、翌朝さらさが一人で役所に提出し、何事もなく無事受理された。


戸籍上は夫婦となったはずだが、肝心の相手が不在だと実感がまるで湧かない。


二週間も意識不明で昏睡していた事もあって、病院で検査を受ける事になり、彼とはそのままずっと会えていない。



「こんな事でウジウジしても仕方ないわ。台本チェックでもしようかな…」



気分を変えてさらさが鞄からバラエティー番組の台本を出した時だった。

来客を知らせるブザーが部屋に鳴り響いた。



「はい。どちら様ですか」



「あぁ、さらさちゃん?蓜島です。突然だけどキミにお届けものです。今ちょっといいかな」



「お届けものですか?今開けますね」



蓜島は限竜のマネージャーだ。

そんな彼が一体何をさらさへ持って来たというのだろう。


さらさはロックを解除し、取り敢えず彼を中へ入れる事にした。



「オフなところ悪いね。でもお客様がどうしてもと我儘言うからさ」



「?」



そう言って蓜島が横に逸れると、その後ろからピンク色の髪に黒縁眼鏡のやけにチャラい若者が現れた。



「…ど……どなたですか?」



「…えっと、伏見……です。ども」



遠慮がちに名乗った若者を上から下までじっくり見つめたさらさは口を大きく開けた。



「はぁっ?あなたもしかして紘太なの?」



「まぁ、はい。一応」



「どうしたのよその頭!」



さらさは近寄り、背伸びして明るいピンク髪を引っ張る。

限竜はかなり背が高いので背伸びしないと頭まで手が届かない。



「痛たたたっ、ちょっ、ハゲるって。しばらく仕事休みになったから、髪型戻しただけなんだけど、まさかそこまで反応されるとは思わなかったな」



限竜はさらさの手から逃れるように身を引く。



「ゴメンね。さらさちゃん。一応止めたんだよ?でもこっちの方がいいって聞かなくて。道明寺限竜やる前はこんな感じでね。円堂社長が問答無用で前髪にハサミ入れて髪も黒く染めさせたんだよ」



「…もう円堂の事務所は退所してるし、活動も休んでるからいいと思って。復帰する時はまた黒髪に戻すから」



限竜は今の髪型を気に入っているらしく、満足そうに前髪の先を摘んでいる。



「私の一番嫌いなタイプど真ん中じゃない…逆ドストライクだわ」



「ん、何か言った?」



「何も!で、お届けものって何よ」



「あぁ、そうだった。婚約指輪渡しに来た」



そう言って限竜はブランドのショッパーを見せた。



「えっ?私に?」



「他に誰に渡すんだよ。ほら、手出して」



さらさは幸せそうな顔で左手を彼の前に差し出す。

結婚指輪を一旦外し、スルっと限竜は新たな指輪を嵌める。



「さぁ、どうぞ」



「ありが…………って、何よこれ」



「え、指輪にしか見えないと思うけど?」



さらさは自分の目を疑った。

その指には悪趣味に目立つ大振りのダイヤの指輪が嵌められていた。


どことなく昭和に流行ったようなゴテゴテ感である。



「そうね。あんたっていつも悪い意味で期待を裏切る残念男子だもんね」



「え?いや、それ普通「いい意味」って言わない?悪い意味だと全然裏切ってないし」



「まぁ、いいわ。記念に受け取るだけ受け取ってあげる」



「うーわー、全然気に入ってない」



「紘太。だから一緒に選べと言ったのに」



蓜島がやれやれと肩をすくめる。



「じゃ、そういう事で帰るわ。またね。更紗」



「え、帰っちゃうの?結婚したのに?」



役目は終えたとばかりに背を向けた夫にさらさは肩透かしを喰らう。



「あぁ、俺あのタワマン出たんだ。来週は検査入院あるし、それまでホテルで過ごす事にするわ。荷物も蓜島さんの車にあるし」



「ええっ、ちょっとそれだったらここに住みなさいよ」



「は?でも俺、面倒かけるし…いいよ」



「そうなんだよ。さらさちゃん。紘太、一昨日ようやく重湯から五分粥になったくらいで、まだ身体は本調子じゃないんだ。ホテルにはヘルパーさんもいるし…」



「それ、私がやります。だから彼をここに置いてください」



「え、でもいいのかい?大変だよ」



蓜島が心配そうな顔でこちらを見てくる。

確かに仕事をしながら彼の面倒を見るのは結構な負担だ。

しかしもう二人は夫婦になったのだ。

ならそれは自分の役目だとさらさは思った。



「大丈夫です。それにもうこれ以上彼と離れていたくないですし」



「え……ちょっと何か俺今泣きそうなんですけど」



「良かったじゃないか。紘太。じゃあ今お前の荷物取って来るよ。荷物といっても着替えと日用品、それと薬しかないからね」



        ☆☆☆



「………何よこの薬の量。こんなに飲んで大丈夫なの?」



蓜島はスーツケースを一つ持って来てすぐに帰っていった。

彼には他にも抱えているタレントがいるので忙しいのだ。


今は机の上に大量に置かれた薬の袋と毎日に食事の注意等が書かれた冊子をさらさは呆然と見ている。



「それが、食欲不振を抑える薬の副作用が発汗、動悸、不眠とかで、寝れないって言ったら出された不眠を抑える薬の副作用が食欲不振、ふらつき、痒みとか色々あって、おまけの副作用がどんどん被って、何を治療してるのかわからくなってんの。しかもほぼ書いてあった副作用、全部出たからね」



そう言って限竜は腕まくりして赤い発疹を見せた。



「それちゃんと薬剤師さんに相談しないとダメじゃない」



「…はぁ。ん。そうしてみる。あのさ、悪いけど少し休んでいい?ちょっともう限界。怠くて瞼も開けてられない。本当はあの後車の中で寝ようと思ってたし」



その時、限竜がさらさの肩にもたれて来た。

やけに身体が熱い。



「ちょっと、あんた熱出てるの?」



「……どうしても指輪だけ渡したかったから」



「バカね。あんなの渡すために命張らないでよ」



「あんなって、あれ今乗ってる俺の車くらいしたんだよ?」




「もう。早速無駄遣いするんじゃないわよ」



さらさはすぐに客間に寝具を持って来る。



「あー、俺ここでいいわ」



「ダメに決まってるでしょ!そこ部屋の隅っこじゃない。どんだけ隅っこ好きよ」



「落ち着くじゃん…」



瞼を閉じ、そのまま寝てしまいそうになる限竜を抱え、客間へ運ぶ。



「……更紗、一緒に寝ないの?」



布団に寝かせると、限竜が寂しそうにこちらを見上げる。



「私はまだやる事があるの。あ、もう結婚したんだからわざわざ寝室分けなくてもいいのか…」



そう思ったら何か急に恥ずかしくなってきた。

引き留めてまで彼をここにと望んだはずなのに。



「……一緒の寝室にする?」



「いや。別でいいよ。取り敢えず今の俺、病人だし。夜も咳が酷くて起こしちゃうから、更紗の仕事に支障が出る」



「…そういう時は起こしなさいよ」



さらさは限竜の額に冷気シートを貼る。



「あまり俺を甘やかさないで。これ以上さらさの前でカッコ悪くなりたくないから」



「もう十分見たわよ。これ以上ないくらいね」



「だったらいいか……」



さらさはゆっくりと顔を寄せ、彼と唇を重ねる。



「熱上がってない?」



「そんな熱の計り方するからだって!おやすみ!」



限竜は布団を引っ被るとさらさに背を向けて寝てしまった。

すぐに微かな寝息が聞こえて来る。


多分寝落ちしたのだろう。



「はいはい。お休み。紘太。これからよろしくね」



今までずっと一人で頑張ってきたさらさにとって、異性との同居は生まれて初めての事だ。

それを意識すると、結婚したというのにどうも居心地が悪い。


でもそんな毎日を共に過ごし、日々を重ねて

いけば、きっとそれが当たり前の日常になっていくのだろう。


さらさはゆっくりと立ち上がった。



「さて、この五分粥ってどう作るんだろう。ちょっと検索してみるかな〜」



これから更に忙しくなりそうな予感にさらさは気合いを入れるように拳を強く握った。




       終わり











この後、二人で夕陽たちのところへ挨拶に行くのは本編の方にあるので、これで繋がったかな。

一応二人の物語はこれで完結です。


限竜さん元気になった後はきっと好き放題しそうでムカつくから先は書きたくないしw



ここまでお付き合いありがとうございました。


次は誰にしよう…。













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