第53話「キミへ捧げるエンドロール」
「ぜぇ、ぜぇ…。あの、更紗さん?俺二週間くらいまともに歩いてないから頭ホワホワしてるし、足も力入らないんですけど?」
「少しはリハビリになるでしょ。ほら、しっかり掴まないと階段から落ちるわよ」
限竜は歩く度に何度か意識を持っていかれそうになりながらも、さらさと一緒に階段を降りる。
「うぅっ、目のチカチカエグい…」
「あんた、変なクスリでもやってんじゃないの?」
一応結婚の意思を固めたので、下にいる彼の親へ報告したいとさらさが提案したのだ。
まだフラフラな限竜を無理矢理歩かせるのは申し訳ないが気が急いていた。
「更紗さぁ、向こうにさ、エレベーターがあるんだけど知ってた?」
「知ってたけど?随分と贅沢な家ね。でもあなたのリハビリにならないから却下」
「鬼ババー!」
「何、突き落とされたいの?」
そんな限竜を宥めすかし、随分長い時間をかけて三階から一階へ降りると、下には彼の家族が揃っていた。
「まぁ、紘太。あなたもう歩けるの?」
ソファに座っていた見知らぬ女性が立ち上がり、すぐにこちらへやって来た。
「………そこの鬼ババが…ぐはぁっ!?」
「ふふふ。何かあったのかしらね。紘太さん?」
「…母さん、もう妻が恐怖政治強行してきました」
「あら、じゃあやっぱり彼女だったのね。良かったじゃない。紘太。こんな可愛いお嫁さんが来てくれて。初めまして、紘太の母の由依です」
そう言ってこちらに握手を求めてきた女性が限竜の母親だった。
教師をしているという事もあって、クールで凛とした印象を受けたが、話してみると父親と同じ柔和な笑顔に癒される。
彼女が円堂の恩師であり、大切な人だったのだろう。
「わぁ、コタ兄おめでとー。アイドルのさらさちゃんが義理のお姉ちゃんだなんて夢みたい♡」
ルルが手を叩いて喜んでいる。
紘希もアイスを食べながら拍手していた。
「あの、本当にいいんですか?私がこの家に嫁として来ても」
「勿論歓迎するよ。とうぞ、遠慮なく貰ってください」
「何、俺が貰われるの?」
「そういう心構えでいなさいという事だよ。でもいいんですか?お仕事への影響は」
大輝が心配するのもわかってた。
これは全てさらさが独断で決めた事だ。
これから事務所へきちんと話をつけなくてはならないし、他の仕事への影響もある。
みなみはちゃんと事前に報告し、発表も全て事務所の方で対応してくれる。
出来れば自分もそうしたかったが、もう止められない。
このとんでもない嘘つきで、子供のように手のかかる不安定な男を一人で放っておけないからだ。
「えぇ。何とかしてみせます」
さらさは気持ち良く答えた。
これからが大変だが、不思議と不安はなかった。
☆☆☆
「はぁ…。もう十分フラフラだっつのに、彼女送ってこいって鬼か…」
半分肩を借りながら、さらさを駅まで送る事になった限竜は満足げな顔をしているさらさを見て顔を顰めた。
「何でそんな不気味に笑ってんの?気持ち悪いんだけど」
「あんた本当に生意気ね。年下のくせに」
さらさはぎゅーっと、限竜の頬を引っ張ってやった。
「ひててて…。年は円堂が独断で設定したからで、別に俺がわざと嘘ついてたんじゃないって」
「マチアプの年齢だって嘘だったじゃない」
「あ…あはは。うん。それは謝ります。スミマセンでした。でも本気で結婚するつもりはなかったから」
「何よ。最初に結婚したいわ〜♡なんて言ってたのに。本当嘘つきなんだから」
「いや、でもあの時は本当にヤバくて。毎日生きてるのがキツくて誰かに縋りたかった。更紗のプロフの「一緒に支え合って幸せになりたい」っての見て、そうだなと思ったから申請したんだ」
「……私は母のようにはなりたくなかったの。ちゃんとただ一人を愛し、愛されて結婚したかった。それだけ」
限竜はさらさの手を握った。
大きいけれど、骨と皮しかないようなか弱い手の感触が彼らしくて、さらさは愛おしそうに指を絡める。
「……俺、ちゃんとするから」
「ん?」
「ちゃんと治療してまた更紗の前に戻って来る。嫌だけどカウンセリングも受ける。摂食障害とアルコール依存の治療も再開する」
「うん。エライね。紘太は」
「……やっぱりバカにしてない?」
「ううん。まさか」
さらさは嬉しそうに限竜の肩に頭をつける。
すると限竜はゆっくりとさらさに顔を近づけようとする。
「ちょっと待った」
するとさらさが顔を背け、何かを思い出したように限竜から身体を離す。
そして彼から庇うように胸を隠す。
「は。何が?」
「あんたそういえば、あんな口調でクネクネしてたから油断してたけど、結構手が早いわよね?」
さらさは限竜の部屋で胸を揉まれた事を思い出し、軽蔑の目で見上げる。
「いや、あれは理性飛んだってか、これで終わりだと思ってたからであって…」
「そんな肉食紘太クンがお試し期間は待ったとか言い出して、大いに油断させて襲いかかるつもりだったんじゃないの?」
すると限竜は手をブンブン振り回して否定する。
「いや、それは違うから。あの時はそういう目的は完全になかった。だってあの時。俺本当に性欲なかったから。ついでに食欲も睡眠欲もなかった。ただ、一緒にいてくれる人が欲しかっただけで」
「…でもあんたの家行った時、反応はしてたよね?」
「………疲れてただけ。生理現象だって。いや、何でこんな往来でこんな説明させられてんの?」
限竜は頭を掻きむしる。
しかしさらさは更に攻撃をしかけてきた。
「へぇ。性欲なかった人がねぇ。そうそう言うつもりなかったけど、一週間くらい経った時、私が洗面所の掃除をしていた時、あんた何してたか覚えてる?」
「一週間…?あれ、何かあったっけ」
心当たりが全くない。
「私が洗剤のストックを取りに行ったら、あんた私の名前何度も呼んでたのは覚えてない?」
「!」
その時、限竜はその何かを思い出したのかピタリと動きを止めた。
「あんたに呼ばれたと思って戻ったら、私の写真持って随分お楽しみなようだったから、そっとしておいたけど。あの後あんた妙にスッキリした顔でシャワー浴びに行ったでしょ。その後の事も忘れた?」
「……え?後?え?」
「その後、あのドロドロの床掃除したの私なんですけどね」
「なっ…えええっ!?」
さらさは腕組みして限竜に詰め寄る。
「信じられない。女の子にアレの後始末までさせて。自分は忘れてスッキリした顔でシャワー浴びて来て。後始末くらい自分でしなさいよね」
「は、いやマジえ、なっ…見て…えー、えーーーー!?」
完全にオーバーヒート。
見る間に限竜の顔が赤くなり、涙まで滲んでいた。
そしてフラフラしながら立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってよ。ここで別れたらご家族に私が泣かして帰したみたいになるじゃないの!待ってよ。悪かったわ。あんたの名誉のために黙ってるつもりだったのよ?」
さらさはすぐに彼の後を追いかけたのだが、しばらくの間、限竜の機嫌は直らなかった。
もうちょっと書きたいから、もう少し書かせて欲しい(^^;)
多分ぼんやり散歩してたら、また書いておきたい事が浮かんでくるはずだから。
思えばこのエンドロールはあまり要らないエピソードだった。
でも本編でさらさが言ってたので、何があったのか書いておきたかったのです。
思い切り下ネタですけど。
成人指定には抵触しないレベルだと信じたい。
そして自分も疲れてたんだと思いたい。
お盆休みの全てを二人に費やしました。
楽しかったです。
毎日更紗と紘太の事が頭から離れなくて廃人のようでしたが。
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