第48話「キミと離れてから気付いたこと」

限竜の血を吐くような衝撃の告白から一週間が経った。


あの日、さらさは一人、彼のベッドで目覚めた。

飲まされた液体は眠剤を砕いて溶かしたものだろう。


目覚めるとあの特有の頭の痛みを感じたが、それ以外は別段体調に影響はなかった。


ゆっくりベッドから降りると、身体に掛けられたブランケットがするりと落ちる。

程よい空調の中、それでも風邪をひかぬよう彼が掛けたらものだと思ったらそれだけで涙が溢れてきた。


さらさはしばらくの間、彼がまた戻って来るのではと待ったが、仕事の時間が来てしまったので、後ろ髪引かれる思いで部屋を出た。


それからも毎日のようにさらさは彼の部屋へ足を運び、彼の帰りを待ったが、彼は戻らなかった。


仕事もずっと体調不良で欠席が続いている。


一体、今頃彼はどこで何をしているのだろうか。


まさかあの円堂教授と野崎教授の論文盗用事件が彼にも関係していたとは思わなかった。


きっとその事実を知ってから彼は心を蝕まれ壊れていったのだろう。


確か円堂教授の息子である殉は、あの事件の後、両親が離婚して母親と二人で渡米したはずだ。


そして小学校から高校までを米国で過ごし、日本の大学へ入学する為に帰国している。


その間に教授は再婚し、あの崇が生まれた。


兄の殉は母親に守られるように渡米し、風評から逃れたが、崇はずっと日本で育っていた為、あの事件のせいで酷い扱いを受けてきたらしい。


やがてその鬱憤は盗用事件で争った野崎教授の娘、詩織へと向かった。


帰国した殉は彼が起こしたその事件を知っていたのだろう。

そして自らの保身の為なのか、半分血の繋がりのある弟を思っての事か、殉は崇を擁護するようになる。


紘太はそんな殉が一番精神的に不安定な時期に出会った女性との間に生まれた子供だったのだろう。

殉は紘太の誕生を知らないまま、事業を拡大し、やがて社会に影響を及ぼす大物へと成長していく。


今まで知りたかった全てのピースが埋まったというのに、さらさは少しも達成感を味わえなかった。


この事実はあまりにも重すぎる。


ただ限竜…紘太が気の毒で仕方ない。

彼は一人で苦しみ、あんなにボロボロになった。



「紘太……あんな別れ方が最後なの?もう一度会いたいよ」



カレンダーを見ると、そろそろお試し期間が終わろうとしていた。


   

        ☆☆☆



その日もさらさは彼のマンションへ向かう。


彼の行方を知る者はなく、この頃になるとそろそろメディアの露出が途絶えた限竜に重病説が出始めていた。


このマンションしか彼との繋がりがないさらさには、ここへ通う事しか出来る事がない。


だから今日も自然と足はこちらへ向かった。



「藤森更紗。久しぶりだね」



その時、共有フロアに入ったところで声をかけられた。

一瞬マスコミかと身を固くしたが、それは聞き覚えのある声だった。



「円堂………さん?」



声をかけてきたのは以前ここで姿を見かけた円堂殉だった。

濃紺のスーツを纏った彼はモデルのような姿勢でこちらへ身体を向ける。



「紘太に会いに来てくれたんだろう。私と少し話さないか?」



その言葉にさらさはゆっくりと頷いた。


     

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