第46話「気付けば毎日キミを想っていた」
「森さん、おっはー。麩菓子食べまふ?」
いつもの楽屋へ入ると、トロピカルエースのメンバー達がもう揃っていた。
みなみは机の上を麩菓子の屑だらけにして、巨大な麩菓子に齧り付いている。
「私はいいわ。それよりちゃんと片付けなさいよ」
「ふぁーい。母さん♡」
「なっ……」
さらさはショックを受けたように固まった。
ここ最近の限竜の介護ですっかりオカンが板についてしまっていた。
(あの男のせいでこっちもペース崩されまくりなのよ!)
そこでさらさは思い出す。
限竜の部屋を出る時に見かけた円堂殉の姿を。
彼が釈放された事はニュースで知っている。
だけど何故あの場に彼がいたのだろう。
同じマンションに住んでいるのだろうか。
以前、円堂と付き合っていたさらさとしては何となく落ち着かない。
しかし付き合っていたといっても、二人の間に何があったわけでもない。
ただお互い女優としても起業家としても駆け出しだった頃の足掛かり、コネクションを作る為の繋がりでしかなかったのだから。
実際あれから円堂は事業に成功していったし、さらさも大きな仕事を掴んだ。
さらさは無理矢理円堂の影を頭から追い出し、自分もメイクへ向かう。
「はぁ。さっきまで一緒だったのにもう彼氏に会いたくなってきた」
突然、スマホを持った怜が机に突っ伏した。
さらさはそれを見て、せっかく頭を切り替えたのに、また限竜の事を思い出してしまう。
「はぁ…わかるわ。ちゃんと薬は飲んだのかとか、どこかでのたれ死んでないかとか感がたら心配で……」
「森さん、それ誰の事ですか?」
「えっ?あ、別に違うの。知り合いの話でね」
妙に食いついてきたさらさに、怜たちが困惑顔で首を傾げている。
さらさは慌てて逃げるように楽屋を出た。
「あぁっ、もう。あのバカっ。気になるものは気になる!」
理不尽な怒りのままにさらさはスマホで限竜を呼び出す。
案の定、出る気配はない。
奥の手でさらさはもう一台のスマホを取り出した。
こちらは主に仕事用で、限竜も知らない番号が登録されている。
今度はすぐに繋がった。
「…はい。どなたで……」
「ちょっと、私からの電話は何が何でも出なさいって言ったよね?」
「………その声、更紗?」
いかにも嫌そうな声にさらさの苛立ちは増す。
「そうに決まってるでしょ。今、何してるの?」
「何って。朝言ったのに。メンクリだって」
「わかってるけど、じゃあ今はその帰り?」
どうやら本当に病院へは行ったようだ。
その事に少しさらさは安堵した。
だが、それはすぐに覆される。
「いや、点滴ぶっ刺されて伸びているトコ」
「はぁっ?何でよ」
「知らないよ。栄養足りてないって言われて注射されたら目の前がチカチカして真っ暗になった。で、気付いたらこうして腕にぶっとい針刺されて伸びてた」
「……あんた、どこまで虚弱なのよ」
「だから知らないよ。そんなの。もう少ししたら帰れるから切るよ。全くストーカーだね。更紗は」
そう言うと限竜は勝手に通話を切ってしまった。
「ストーカー?……こっちの気も知らずに。でも何か一日中あいつの事が気になるのよね」
さらさはため息を吐いた。
最近、気付けばあの病人の世話でほとんど夕陽の事を考えなくなっていた。
「今日は早く帰らなくちゃ。どうせあの広い部屋の隅っこでぼんやりしてるだけだと思うし」
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