第40話「夜間ドライブへ」
勢いでお試しカップルになってから数日後。
さらさは今、限竜の運転する車の中にいた。
今日が所謂初デートだ。
あの後、一応メッセージアプリのIDを交換して数回のやり取りはしていた。
ただ、限竜の方は慣れているのか話題も豊富で、送られてくるメッセージもこちらが聞かれて答えやすいものを選んでいるようで、言葉選びのセンスを感じる。
一方で、全くこういう恋人同士でのやり取りに慣れてないさらさは、その問いかけにほとんど単語だけのカタコトで返してしまい、まるで「メシ、風呂、寝る」という昭和堅気の頑固一徹オヤジのようだった。
たまには自分からメッセージを送ろうとしても作成に一時間くらい要し、送信したのはマネージャーへいつも送っている業務連絡のような文面になってしまう。
そんなさらさをどう思ったのかはわからないが、限竜はデートへ誘ってきた。
二人の仕事が終わってすぐの夜間帯。
平日の首都高を限竜の車で走る。
さらさは緊張で顔を引き攣らせながら、隣の彼の顔を見ないように車窓の景色を見ている風を装う。
初めてデートが彼の車🟰密室は中々ハードルが高い。
聞いた時、さらさは思わず身構えたが、最初に本物の恋人達がするような行為はしないと言っていたのを思い出し、信じてみる事にした。
もし、何かあればただではおかない。
一応同じトロピカルエースのメンバーである怜から強力スタンガンと催涙スプレーは借りて、鞄に忍ばせてある。
怜は日常的にこれらを持ち歩いているらしい。
ただ、一度でもそれらを使う場面があったのかが気になるところだ。
「ねぇ、さっきから車に乗ってから全然しゃべらない借りてきたネコちゃん状態だけど大丈夫?」
「ふぇっ?あ…いや、その……大丈夫」
色々な事を考えるのに夢中になっていたところに限竜が声をかけてきたのだ。
さらさは思わず椅子から飛び上がるくらい驚いた。
「へぇ、女優でも緊張するんだ」
「わ…悪い?」
全ての女優がリアルの本番デートで緊張しないというわけではないだろう。
さらさはあれは仕事と割り切っているからスイッチが入るものだと思って演じている。
だったらお試しであるこのデートもそういうものだと思えばいいのに、今日に限っては中々そのスイッチが入ってくれない。
(もう、どうなっちゃってんの…本当調子狂う)
「ふふふっ、いいなと思ったの。そういう反応新鮮だわ。それに車に乗る時に真っ先に後部座席乗っちゃうところとか」
「煩いわね!それより今日はどこにいくつもり?」
声を上げて笑い出す限竜にさらさは顔を真っ赤にして怒り出す。
それがまた限竜を新たな笑いへと誘う悪循環。
さらさはおかしくなりそうだった。
「はいはい。そんなに興奮しないの。今日は夜の海を見るのよ」
「海?」
さらさはようやく限竜の顔をしっかり見た。
その端正な横顔に一瞬心拍数が上がる。
「そう。海よ」
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