第39話「お試しカップル誕生」
「謹んでお断りします!こっちだって同業者なんてお断りなんだから」
さらさは毅然とした態度で腕を組み、威嚇するようにギロリと限竜をにらみつけてやった。
それを見ても限竜は気分を害した様子もなく、大人な態度で余裕の変わらぬ笑みを浮かべている。
「あら、つれない。別にいいじゃない。お試しなんだから気軽に楽しくお付き合いましょうよ」
「冗談!大体貴方、別に相手に困ってないんでしょ?だったらそっちに行けばいいじゃない」
限竜はこれでも異性にモテているという話は業界内でも有名な話だ。
コレのどこがいいのかわからないが、彼とお近づきになりたいという話を共演者の女の子たちから聞いていたので、さらさの中では限竜はそんなイメージだった。
だが限竜はそれにうんざりしたように息を漏らす。
「あれは砂糖に集る虫のようなモンよ。別にあたしだって相手にしてたわけじゃないし」
「どうだか。何でマチアプなんて登録するのよ。まさかたまには毛色の違うタイプに手を出したくなったとか?」
「違うわよ。そんなにガツガツしてないわよ。アンタ、あたしを何だと思ってるの?あたしね、今ちょっと生活荒れてんのよね。このままじゃ良くないとは思ってるの。そんな時、可愛い彼女でもいてくれたら、あーこの子の為に頑張れる、生活も疎かにしてられないって思うじゃない。あたしはそういう存在が欲しいの」
「……」
そういう限竜の顔はどこか翳りを帯びていて青白い。そこから少し疲れが滲んで見えた。
今言ったのは本当の事なのかもしれない。
「………お試しって期間はどのくらい?」
「え?」
ボソリと言った言葉に限竜は聞き間違いかと顔を上げた。
「だから期間よ。こういうのはしっかり決めておかないと後から揉めるでしょ?」
「え、もしかしていいの?」
「…仕方ないからその茶番に付き合ってあげる」
少し拗ねたようにさらさは鼻を鳴らした。
まぁ、短期間限定なら付き合ってもいいのではと思ったからだ。
限竜は少し考え込むように中空を見つめて、すぐに笑顔を浮かべる。
「1ヶ月といいたいところだけど、お互い仕事が詰まってるし、それじゃあ大して打ち解ける事も出来ないだろうから2ヶ月はどう?」
「2ヶ月…ねぇ。うん。まぁいいわ。それで」
一瞬、半年とか言い出したらどうしようと思ったが、案外短くて意外に感じた。
まぁ、さらさとしてもちょうど良い期間だ。
「言っておくけど、マスコミにはお互い気をつけましょうね。何せお試しなんだからそこで記事にされても困るでしょ?」
「あら、案外しっかりしてるのね。確かにそうよね。あ、そうそう。お試しなんだから当然恋人同士がやるような深いスキンシップはナシよ」
限竜がニヤリと釘を刺す。
「と…当然じゃない!何を言ってるの」
「あらぁ、期待しているのかと思った♡どうせ仕事場と自宅の行き来だけで枯れたアイドル生活してんでしょ?」
あたしもだけどねと限竜は笑った。
すると瞬時にさらさの怒りに火がついた。
「そんな事ありません!結婚を考えてる人くらいいますから」
つい悔しさからとんでもない事を言ってしまった。
同時に真っ先に真鍋夕陽の顔が浮かんだが、もう止められない。
限竜はただ、目を丸くしている。
「あらぁ、そうなの?だったらどうしてこんなアプリになんて登録したのよ」
「うぐっ…。その…ちょっと今、その人との事を考え直しているというか…」
はっきり言ってバレバレの嘘である。
アイドルをする前は女優で活躍していた実績が台無しである。
「ふぅん…そうなの」
当然彼も信じてはいないだろう。
限竜は揶揄うようなニヤニヤ笑いを止められず、最後には肩を振るわせていた。
本当に失礼な男だ。
全て見透かされているようで更に悔しさが募った。
「ぐっ……別にいいでしょ。そんな事!」
「ハイハイ。お試しだからね。別にそれは構わないわ。結婚前の見極めは大事よね。それであたしとそのお相手の事をよく考えてみなさいな」
やっぱり見透かされている。
そう感じたさらさは唇を噛み締めた。
あんな事言わなければ良かった。
「じゃあ。これから2ヶ月、よろしくね。更紗」
「なっ…」
いきなりの名前呼びにさらさは言葉を失った。
どうも大変な事になってしまった。
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