第37話「婚活アイドル」

「あ、さらさちゃん。おつかれー。そうそう。先日の特集組んだ雑誌。今日見本出たんだ。良かったら見てみてよ」



お昼の情報番組の収録を終え、次のスタジオへ移動の最中、さらさを呼び止めたのは雑誌社の専属ライターの男だった。


業界スマイル全開で手渡されたのは、さらさが表紙を飾る婚活雑誌だ。



「ありがとうございます〜。うわぁ、めっちゃ良く撮れてるじゃないですか」



「でしょ?中身もいい感じだからさ。是非中身もチェックしてみてよ」



「はい。ありがとうございます」



さらさは笑顔で雑誌を受け取ると、深々と頭を下げた。


男はそのまま上機嫌で廊下の向こうへ消えた。



「ふぅ…。アイドルに婚活かぁ」



移動の車内。

さらさは少し疲れた顔でたった今渡された雑誌を捲る。


ポップなカラーで彩られたさらさの特集記事は「アイドルだって結婚したい♡婚活に興味津々」と派手なロゴのタイトルが目を引く。


去年の手痛い失恋からまだ心の整理がついてない状態で受けたアンケートは、正直何を答えたのかまるで覚えていなかった。


ほとんどライターがブラッシュアップしてくれているので、何とかサマにはなっているが、今のさらさは恋愛に前向きにはなっていない。


だから当然、その先にある結婚なんてまるで考えも及ばない。



「本当にこんな事言ったかな。私」



記事にはさらさがいかに結婚に前向きか、その後、旦那さまとの生活についての夢がこれでもかと挙げられている。



「全て王子との事でも夢想してたのかなぁ。我ながら痛いわ」



さらさは雑誌を閉じると、大した読みもしないまま、それをマネージャーへ渡す。



「もういいんですか?」



「ん。もう大丈夫」



そう言ってさらさは、アイマスクを取り出してしばらく一人の時間を確保する。



「何かメンバーで私が結婚取り残されちゃいそう…」



そう考えると自分が情けなくなってくる。


今までは仕事をしてお金を稼ぐ事だけ考えていた。

先の事なんてどうでも良かった。

ただ稼いでもむしり取られていくだけのお金だったが、それ以外何も考えなくても良かったから。


しかし今、それがなくなった。

もう自分自身の事を考えてもいいのだ。

いや、考えるべきなのだ。


なのにそれが出来ない。

それは何故だろうか。



「ふぅ……難しいよ」



さらさはため息を一つ吐いた。



「アイドルも婚活してもいいのかな」



そう呟き、さらさはアイマスクを額へずらし、スマホを操作する。


そしてあるアプリを立ち上げる。


「Flower Garden〜婚活マッチングアプリ〜」


実は既に登録だけはしていたのだ。


さらさはゆっくりと息を吸って吐いた。



「ちょっと試すだけ…だからね」



一体誰に言っているのやら。

翌日。

さらさに一名マッチングした者がいた。



「え…嘘っ」



さらさはそのプロフィールを見て驚いた。




続く。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る