第35話「お兄ちゃんは色々心配なのです」

「あのさぁ、美空」



ある日の夕方。

夕陽は実家でぼんやりテレビを眺めながら、横で退屈そうにスマホをスクロールしている妹に声をかけた。



「何?お兄ちゃん」



美空はこちらを見ようともせずに応える。

彼女がスマホで見ているのは電子書籍の漫画だろう。



「お前、三輪と付き合ってないよな?」




「…………」




美空からの反応はない。

無視されたのだろうか。


夕陽はもう一度息を吸い込む。



「三輪と付き合ってないよな?」



「…………」



……また無視されたようだ。



夕陽は更に大きな声を出すべく息を吸い込む。



「三輪とつきあ…」



「あーっ、うっさいな。何回も言わなくても聞こえるっての!バカ兄貴」



「聞こえてんなら何か言えよ!聞こえてないと思うだろうが。で、どうなんだよ。付き合ってないだろうな?」



「………………てないよ」




「何っ!?何だよ微妙なその間は」




最近、どうも妹の様子がおかしい。

何がというと、自分でもどう説明していいのかわからないが、とにかく何か違和感を覚えるのだ。



「……別に付き合ってないけど、別にそんな事

お兄ちゃんが気にする事なくない?うざいなぁ」



「なっ……。うざって、お前」



夕陽はヨロヨロとソファに倒れ込む。

一々反応が大袈裟である。

一緒にいる時間が恋人よりも長いせいで笹島に似てきたのかもしれない。



「もう。本当にバカなんじゃないの?こんなのが永瀬みなみの恋人だなんて今でも信じられないんだけど」



そう言って美空はスマホを仕舞い、掛けてあったコートを手に取り、出かける支度を始めた。



「おい、どこ行く気だよ」



「三輪さんとこ!」




「おいっ!言ったそばからかよ」




兄の絶叫を無視して美空は走り出す。

本当に三輪のところへ行く気はなかったのだが、何故だか無性に三輪の顔が見たくなった。



「今、行ったら迷惑…かな」



玄関の前でスマホを取り出し、三輪に電話をしてみる。



「あ、はい。ミクちゃん?どしたの」



三輪はすぐに出てくれた。

何故かその声を聞いただけでホッとする。



「うん。あのね。三輪さん。今からそっち行っていいかな」



「今から?別にこっちは大丈夫だけど。今どこにいるの?」




「自宅の前」



「ん。わかった。じゃ20分くらいで着くかな。駅で待ってます」



突然こんな事を言い出して、きっと断られると思っていたので、今の反応には驚いた。



「え、いいの?」




「ん?だって来るんでしょ」




「う…うんっ!行く!じゃあ待ってて」



「リョーカイ」



そこで通話は切れた。

美空は幸せそうにスマホを胸に抱きしめた。



         ☆☆☆




「美空のヤツ…うざいって…本気じゃないよな」



その頃、夕陽はまだ落ち込んでいた。




「あー、明日会社で三輪の方にも確認しておくか…」



兄は兄で妹がいくつになっても、うざいと言われようとも心配なようである。

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