第32話「実録・片付けられない女の年末」

「これ後で絶対使うと思うし、これは高かったヤツだし、こっちはもう手に入らない限定モノだし…あ〜っ、もう全然片付かないよぅ。助けて、夕陽えもん〜」



「人を便利な猫型ロボットのように言うな!」



夕陽はモップ片手にうんざりした様子で荒々しくため息を吐いた。


広いリビングには大量の衣服やよくわからない小物で床も見えないくらい埋め尽くされている。


その中央に泣きそうな声をあげて助けを求めているのは、永瀬みなみである。


ちなみに彼女は最近JKがなりたい顔ランキングで2位になったアイドルである。

更にちなみに1位は同じアイドルグループ、トロピカルエースの喜多浦陽菜が獲得している。


そんな煌びやかでJKが二番目に憧れる彼女の実態は汚部屋の女主人である。



その彼氏である夕陽はさぞ鼻が高いであろう。

加えて彼は掃除大好きっコである。


彼女が汚して彼が片付ける。


これは最高の需要と供給のバランスであって、夕陽は正に理想の彼女を得たのだ。



「……なワケあるか!何だよそのクソ過ぎる需要供給はっ。大体俺は必要に迫られてやってるだけであって、掃除が好きなワケじゃない!」



「ゆ…夕陽さん?どうしたの。急に壁に向かって叫んだりして」



「は?あ…あぁ。ちょっと幻聴が……って、それより何で半日も費やしてちっとも片付いてないんだよ」



夕陽はうんざりした顔で床一面に広がった衣類や小物という名目のゴミを眺める。



「だってわかんないんだもん」



みなみは唇を尖らせて抗議する。

季節は冬。

それも年の瀬である。

今日は奇跡的にオフだというみなみとデートする予定だったのだが、迎えにきた夕陽はこの部屋の惨状を見て、急遽大掃除に予定変更したのだ。


みなみは不服そうな顔をしたが、そんなのは無視である。



「何がわからないんだよ。掃除の仕方か?」



みなみは首を振る。



「違うよ。何を捨てていいのかわかんないの!」



「はぁ?それ全部お前のだろ。何が要らなくて何が要るのかなんて、持ち主のお前にしかわからないんだぞ」



「でもわかんないんだよ。これくらい物があると!ミニマムな夕陽さんには私の気持ちがわからないんだよ」



「なっ…何かカチンとくるような…引っかかる言い間違いだな。それを言うならミニマリストだろ。俺はそこまで徹底してないぞ?」



しかしみなみの言う事もわかる気がする。

夕陽はため息を吐いて、ゆっくりと衣服を手に取る。



「まぁ、そうだよな。急に全部綺麗にしろと言っても大変だ。わかった。お前のペースで一つ一つ考えて処分していこうぜ。ゆっくりでいいんだ」



「夕陽さんっ」



夕陽は優しく微笑んでみなみに手を差し出す。

その時だった。

二人の足元に黒い残像が横切った。



「!?」



夕陽は言葉にならないものを発し、ソファに飛び乗った。



「わぁ、こんな冬でもまだ生き残りいるんだね。スゴいね。夕陽さん」



何故か瞳をキラキラさせている恋人を見て、夕陽はこの世の終わりを感じた。



「バカっ!もうダメだ。これ何度目だよ。お前に任しておけない。この部屋のモノ全部捨ててやる!根こそぎな!」



「わぁぁっ、どうしたの夕陽さんっ。待ってよ。捨てないでぇぇっ」




こうして片付けられない女は自分では何一つ片付ける事も出来ず、最終的には外部からの強制的な力によって一掃されるしかないのだ。



終わり。





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