第30話「三輪聡の場合*spin-off*」

「もう、はっきり言って別れたいんだよね。大体さぁ、この際だからぶっちゃけるけど、最初奈々美が聡の事好きって言うから、先に取ってやろうって気持ちで告ったんだよね」



「だからこっちとしては別に好きって気持ちないし。奈々美も最初はショック受けてて、そん時はスッとしたけどさ、すぐに三組の上田と付き合いだしたし、もう今ではどうでもいいんだよね」



「別にいいよね?別れても。エッチもさせてあげたし。お互いウィンウィンじゃん」




「…………」




……いいわけない。


付き合う時も、別れる時も一方的に自分の気持ちばかり押し付けて、ボクの気持ちは考えないの?


キミは一度でもボクの気持ちを考えた事あるの?



          ☆☆☆



「はぁ……。また厭な夢見ちゃったなぁ」



三輪はモゾモゾとベッドから這い出すように起き上がると、時計を確認した。



「8時か。まだ寝てたいけど起きるかな」



頭は先程まで見ていた夢のせいでぼんやりしている。


また過去の夢を見てしまった。

三輪は肉体的に疲れてきたり、心が不安定になると必ずといっていいくらいこの夢を見る。


それは高校一年生の頃の夢だった。


夏休み直前の放課後、誰もいない教室に呼び出され、同じクラスの女子に告白された。


その子とはクラスは同じだが、三輪とは特に接点もなく話すのはこれが初めてといってもいい。


そんな子が自分を好きだと言ってきたのだ。

当時は三輪もそれなりに異性について考える事も多かったし、異性との交際についても興味があった。


だから何事も経験だと思い、その場で告白を受け入れた。


最初は楽しかった。

高校一年の夏休みを彼女と過ごすという特別感が毎日をキラキラ輝かせた。


水族館も行った。

海にも行った。

花火大会で初めて手を握った。

遊園地の観覧車の中でキスをした。

夏休み最後の日は親に黙って外泊をした。


どれも楽しかった。

だけど二学期が始まって、急に彼女が自分を遠ざけるようになったのだ。


特に何かやらかした覚えはないが、知らないうちにしてしまったかもしれない。


そんな思いで必死に彼女とコンタクトを取ろうとメッセージを打ちまくった。


その内、ようやく彼女が呼びかけに応じてくれた。

きっと自分がウザかったのだろう。


いつも夢で見るのはそこで彼女から言い放たれた衝撃の告白の場面だ。


彼女は友達の好きな相手を友達が告白する前に取ったのだ。

別に自分は好きでもない男だというのに。


何と歪んでいるんだろう。

三輪は心底彼女が怖くなった。


それから二週間くらい学校を休んだ。

完全な人間不信だ。

親は息子の変わりようにびっくりしていたが、何も聞かずそっとしておいてくれた。


それもあって復帰は早かったと思う。

今では自然に異性とも話す事も出来るし、友達も増えた。


だけど三輪はその過去に蓋をして、「普通」を演じているに過ぎない。

だから今回のように少しでも心が揺らぐと、またその蓋は開いてあの高校一年の二学期に戻される。


今回、特にそんなストレスは無かったと思ったのだが、身体は正直ですぐにまたこの夢を見てしまった。


財布とスマホを盗られたショックもあるが、一番心をざわつかせたのがあの少女との出会いだった。


自分の話す事全てに反応し、それを面白いと言った女の子。


笑顔がとても可愛かった。



「…はぁ。霞だけ食べて生きてる仙人になりたい」



三輪はボスンと枕に顔を埋めた。

あの子の事はもう考えないようにしたかった。

考えると自分を保てなくなりそうだから。


そんな時だった。

来客を告げるチャイムが鳴ったのは。



「…こんな朝早くに誰だ?」




続く。







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