第27話「地下鉄で財布とスマホを盗られた会社員が女子大生にからまれた件」
「げ…、財布とスマホ入ったジャケット盗やれた。マジかよ」
ほろ酔い加減で地下鉄を降りて、三輪は途方に暮れた様子でガックリと頭を垂れた。
先程まで荻窪で同期の笹島たちと楽しく飲んで別れて最高に気持ちのいい状態からで地下鉄に乗り込んだというのに、降りてみたら手に持っていたジャケットが綺麗さっぱり消えていたのだ。
しかもそれに気付いたのは改札機の前でだ。
スマホを改札機に翳そうとしたところで手ぶらだった事に気付き、一気に酔いが覚めた。
「あー、あの時暑いからってジャケット脱いで手で持ってたのが悪かったのか。うわ〜、マジないわ〜」
このままでは駅から出る事も出来ない。
三輪はとりあえず駅員を頼ろうと身体の向きを変えた時、横から若い女の子の笑う声が聞こえてきた。
「あははっ。ダサっ。オジサン今の全部声に出てたよ」
顔の向きを声の方へ向けると、そこには肩までで切り揃えた淡いブラウンの髪を揺らして笑う女の子が立っていた。
年頃は高校生か大学生くらいだろう。
そのくらいの人間からすると23歳はオジサンという認識なのかもしれない。
「オジサンって……もうお兄さんでいられる時期終了してんの?うーわ、思ったより短かったな」
「ふふふ、面白っ。どうせ酔っ払って居眠りしてたんでしょ?それって立派なオジサンじゃん」
「あー、ハイハイ。スミマセンね。じゃオジサンはみどりの窓口行って手続きしてくるから」
そう言って三輪はこれ以上、その女の子の相手をするつもりはないので、さっさと彼女に背を向けて歩き出す。
するとその女の子は三輪の後をついてくるではないか。
「あのさ、何なの?そんなにオジサンが財布盗られたのが面白いのかい?」
三輪はやや顔を顰めて女の子を振り返る。
すると彼女はキャメルのロングコートを翻してこちらへ更に近づいて来た。
コートの裾からネイビーのスキニーが覗いている。
かなり細い足首に一瞬目を奪われそうになるが、ギリギリで踏みとどまった。
「ううん。違うよ。私もカバン盗られたの。だからオジサンについて行くの」
「は?何だって」
女の子は両手を広げて何も持っていない事を主張した。
「つまり、キミはボクと同じ状況だったってのに笑ってたの?」
すると彼女は顔を微かに赤らめ、ムッとしたように唇を窄ませた。
「もう、別にいいじゃん。私だっていきなりこんな事になっちゃって心細い思いしてる時に、同じ状況でテンパってる人がいたんだもん。しかも全部声に出してさ。だから変に笑えちゃって」
そして女の子はまた笑い出した。
三輪もようやく笑みを浮かべた。
「ははははっ、ま、いっか。じゃ一緒に窓口行こう」
「うん。オジサン」
「ウン、オジサンはやめてね。ボクの事は三輪さんでいいから」
「わかった。私もミクって呼んでいいよ」
「ミクね。はい。じゃ行こうか」
三輪とミクは連れ立ってみどりの窓口へと進んだ。
一応続きます。
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