第26話「笹島からの告知」

「今年もあっという間だったよなぁ」



笹島はコンビニで調達してきたツマミを適当に口へ入れながら笹島は壁に貼られたカレンダーを見上げる。


暦は今日から12月。

もう今年も残すところ1ヶ月をきったというわけだ。



「だな。こうして振り返ってみても特にパッとしない一年だったな。俺たち」


そうため息混じりに返したのは、同じく怠惰にツマミのパッケージの成分表示を眺める夕陽だ。



実に怠惰で暇な一日である。



「いやいや俺はそうでもなかったぞ。推し活にガッツリ励んだし、夏のツアーなんて5大ドーム遠征コンプしたし」



「お前はある意味、充実してたと言えるな。だが少しもマウント取られた気がしないが」



夕陽は疲れた顔で缶ビールを煽る。

彼女はいるにはいるが、その相手がアイドル歌手というレア中のレア職業なもので、デートをしたり、普通に街を歩いたりするのも気を使う。


なのでたまに釣り堀や友人たちとカラオケをする以外、あまり趣味のない夕陽にとっては、特に充実を感じない一年だったといえるかもしれない。


それを言うなら同じアイドル歌手を彼女にしている笹島も同じようなものだが、彼には推し活がある。


例えその推しがリアル彼女になっても、ライフスタイルは変える事なく、今でも存分に推し事を楽しんでいる。


それはある意味羨ましい事かもしれない。

夕陽は別に彼女、アイドルとしての永瀬みなみを推していたわけでもない。


最初は笹島に付き合ってライブを見に行っていたわけで、こういう出会いがなければ顔と名前すら一致しないレベルの認識であった。


そんな自分が突然、笹島化したらどうなるだろう。

笹島と一緒にライブでペンライトを振ったり、部屋に祭壇を作って拝んだり…。

考えただけでゾッとする。


いや、そんな気にすらならないのだが。

やはり自分はアイドルとしての永瀬みなみを好きなのではなく、一人の女の子、長瀬巳波を好きなのだと再認識した。



「て、久しぶりに何で呼び出したんだよ」


「あぁ、そうだった。ついうっかりまったりモードに突入してこのままダラダラ終わっちまうとこだった」


「おいおい…」



夕陽は笹島を軽く睨んでやった。

今日は久しぶりに笹島に家へ来るようにと呼び出されたのだ。


夕陽としても最近は仕事が忙しく、家と職場、の往復しかしていない。

それでも休日には食材の買い出しくらいはしていたが、少しそんな生活にストレスを感じてはいた。



「それがさぁ、遂に本編シリーズが動き出すってさ」



「へぇ、まだアレって終わってなかったのか?」



「お前それでも主人公の自覚あんの?」



笹島は一人だけ熱く拳を突き上げ、夕陽に喝を入れる。



「まだ終わってないだろ。今、みなみんがラスボスと戦ってるでしょ」



「ラスボスって…まぁ、そうなんだ。でもさ、この流れだと最後は俺たちがくっついてハピエンになんだろ?もうわかりきってるような結末だと思うがな。後は読者に委ねる形もアリかもよ?」



「甘いな。夕陽。これがそんな上手くいくとは限らんぞ」



笹島はサキイカを口へ放り込み、イヤらしい笑みを浮かべた。



「な…何だよそれ」



思わず夕陽の喉が鳴る。



「途中でみなみんがラスボスに絆されて熊本帰るかもしんないし、それにまだ俺と怜サマのラブラブも中途半端じゃん」



すると夕陽がケラケラ笑ってビールを煽る。



「いやいや。ないない。ありえないから。それにお前の恋愛なんて誰も興味持たないから」



「夕陽、お前なぁ…俺と怜サマが結ばれた回のファンの反応見たか?お前の時よりも応援されてたし、お祝いもされてたんだからな」



「…ファンって何だよ。最近疲れてるから幻覚でも見たのか?」



「とにかく、いるんだよ。俺のファンは!まぁ、今回俺が言いたかったのは、来年からはちゃんと完結させる準備に入るからって事をお前に伝えたかったんだよ」



鼻息荒く笹島がそう言い切った。

夕陽はただそれをポカンと眺めてから一言、言い放つ。



「それって、別に会って言わなくても良くね?」



「……言うな。ただのお知らせ。告知だったんだから」



「俺、帰るわ。最近糠床始めたから、世話したいし」



「うわ、しばらく登場してない間に夕陽がおばあちゃん化してる!」



「うるせーよ。別に糠床イコール年配者の趣味と決めつけんな!」



そんなわけで、そろそろ本編再開させます^_^

またよろしくお願いします。













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