第22話「年越しカウントダウン•30日」

「よし、それじゃあ今日は一年の煤を落とす大掃除をするぞ。まずはお前の部屋からだな。俺の部屋は日頃から綺麗にしてるんで軽くでいいし」



今日は12月30日。

明日で今年も終わる。

その前に今年の汚れは今年のうちに…というわけで、朝から夕陽は無駄に張り切っていた。


一方、深夜まで仕事をしてほとんど寝ていない状態のまま叩き起こさたみなみは、ムッとした表情で彼氏である夕陽を睨みつけている。


「おっ、気合い入ってるな。いいぞ、その目力。今日は頑張ろうな」



「違うからっ!大掃除?そんなの別にいいじゃん。そんなイベント、サ○エさんの世界でのオリジナルの設定だよ」



「なワケあるか!いいか、大掃除ってのはなぁ、古来から連綿と……」



「もういいよ。面倒臭い。じゃあ、ササッとやって適当に終わらそー」



「くっ…現代っコめ」



いかにもやっつけ仕事的な態度で自分の部屋へ向かうみなみを見て、夕陽はエプロンの裾を握り締めた。




         ☆☆☆




「……やっぱ相変わらず期待を裏切らないカオス部屋だよな」



「えっ?夕陽さん何を期待してるの。まさか…まさか」



「何の期待だよ。話を飛躍させんな。俺が言いたいのはこの部屋の惨状だよ」



久しぶりに訪れるアイドルの部屋は、物で溢れかえったゴミ箱のような惨状だった。

床には色々な衣服が散乱し、何がどうなっているのかさっぱりわからない。


前にここを掃除したのはいつだっただろうか。

久しぶりといっても精々数週間の事だ。

それをここまで汚せるというのはある意味才能ではないか。



「はぁ…わかってはいたが、俺が掃除してから一度も自分で掃除してないな?」



「……そうだったかなぁ。一度くらいはしたような気がしないでもあるない?」



「どっちだよ…ったく、始めるぞ。その前に俺に見られて困るモンあったら早く仕舞えよ」



するとみなみは無意識なのか、視線を寝室へ向ける。

それを察した夕陽はコホンと咳払いをした。



「安心しろ。そっちはプライベートエリアだから入らねーよ。自分でやれ」



「えっ、夕陽さん、まさかあっちにあるBL本見たの?」



「見ねーよ!つか見られたくないモンってあの男同士で恋愛するヤツかよ…」



夕陽は頭を抱えたくなった。

一応恋人の趣味嗜好に口出しするつもりはないが、みなみの場合はちょっとレベルが違う。



「別にいいじゃん。心のオアシスなんだからー」



「……そりゃ普通に楽しむレベルなら構わねぇよ。だけどお前わざと俺に似たような男が出てくる漫画ばかり選ぶよな?しかも全部ヤラれる役ばっかりの」



「やっぱり見たんじゃない!夕陽さんの助平魔神!」



「何だよそれ…」



このままでは話にならない。

夕陽はみなみを無視して黙々と大掃除を始めた。

その内、みなみは仕事に出てしまったので後はずっと孤独な闘いが続いた。

去年のままのカレンダーや、仕舞い忘れた食器、化粧品の空箱類、賞味期限の切れた菓子やヘナヘナになった竹輪や野菜の屑が部屋のあちこちから出てくる。


それらを夕陽は根気よく分別し、掃除しまくった。




         ☆☆☆



六時間後。


「や…やった!やりきったぞ。俺は」



綺麗に片付いたみなみの部屋で、夕陽はただ達成感に酔いしれていた。


その時だった。



「おめでとう。夕陽さん♡」



「はっ?あぁ、帰って来てたのか」



目の前にはエプロン姿のみなみが立っていた。

その手には熱々の鍋がある。



「今日一日頑張った夕陽さんに、私からシチューのプレゼントだよ」



鍋からはほこほこと湯気が上がり、良い匂いがした。

思わず夕陽の喉がゴクリと鳴る。


そういえば今日は朝にパンを一枚食べたきりで、ずっと掃除をしていた。

急に空腹感が募る。



「あぁ。お前にしては気が効くじゃないか」



「ふふふっ。もっと褒めていいよ。作るの大変だったんだから」



すると夕陽の動きが止まった。

何か嫌な予感がする。



「おい、一応聞くが、これはお前の手作りか?」



「そだよ。言ったじゃん。作るの大変だったって」



みなみは得意そうに胸を張る。

同時に夕陽の顔色は悪くなっていった。



「それ、どこで作ったんだ?」



「え?どこって、夕陽さんちの台所……って、夕陽さん、どこ行くのーっ!シチュー冷めちゃうよ」



みなみが言い終わらない内に夕陽は自分の部屋へ駆け出していた。

数分後、夕陽の絶叫が響き渡る。


夕陽の大掃除はまだこれからである。




次回、31日。大晦日の夜にて。








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