第21話「年越しカウントダウン•29日」

「いやぁ、気づけば今年も残り三日じゃん?」


笹島が壁のカレンダーを見て、たった今気づいたように声をあげた。



「本当だー。一年早いよねぇ」



それを聞いて秋海棠一十が、間伸びした返答をする。



「ですよね〜?年取ったら一年なんて一瞬なんでしょ。今から怖いわぁ」



向かい側でポテチを齧りながら漫画を読むのは永瀬みなみだ。

それは夕陽にとってはお馴染みのスタイルなのだが、今日は違った。



「みなみはともかくとして、何で笹島と秋海棠さんがいるんだ?」



大鍋を持った夕陽がリビングのありえない光景に、こめかみに青筋を浮かべ仁王立ちしている。


彼が憤りを覚えるのも当然で、夕陽が帰宅すると、リビングには何故かみなみと笹島、それと大物プロデューサーの秋海棠一十が揃ってこたつに入り、テレビを見ながらまったりテレビを見ていたのだ。


そしてわけがわからないまま、こうして四人分の鍋の支度をしている。


一十が持参した超高級食材てんこもりのデラックス鍋である。



「そんなのいいじゃん。別に。年末のスペシャルエピソードなんだから。ほら夕陽。早く鍋をカモン!」



調子のいい笹島はカセットコンロを準備し、今か今かと鍋の到着を待っている。



「そうそう。早く食べようよ。夕陽さん」



「ったく…。何なんだよ」



仕方なく夕陽は三人の前に鍋を置いた。

するとすぐに歓声があがる。



「わぁ、豪華!カニとエビが満載♡」



「フグもあるよ♡」



「うぉぉっ、生きてて良かった!」



「お前ら…」



夕陽は頭を抱えた。

しかしそんな夕陽を見る事もなく、三人は鍋に夢中になる。



「本当に夕陽くんは料理が上手だねぇ」


「でしょ?自慢のマブダチっすから。今度お貸ししますよ」



夕陽を褒める一十の言葉に、何故か笹島が嬉しそうな顔で胸を張る。



「ちょっと、笹島さん。あれは私の専属メイドなんですからね!勝手に使ったらお金取りますよ?」



「誰が専属メイドだ!」



思わず茶碗をガチャンと音を立てて取り落とす夕陽に、みなみは頬を膨らませる。



「えー。違うの?」



「全然違うから!大体お前の家事能力がミジンコ並だから、俺がやってやってるだけだからな」



「ちょっ、酷っ!ミドリムシくらいは出来ると思いますー」



「ちょ、みなみん。ミジンコやミドリムシって微生物引き合いにしなくても…」



笹島が顔を引き攣らせている。



「本当に愉快だよねぇ。あの二人」



「まぁ、そっすね」




         ☆☆☆



「それより、今日は一体何で集まったんですか?特にみなみや秋海棠さんは忙しくないんですか?」



ようやく夕陽も落ち着いて、皆と一緒に鍋を囲んだところで、一番聞きたかった一十に事を訊ねてみる。


一十は穏やかな笑みを浮かべ、野菜を口に運びながら答える。



「あぁ、今日からスペシャルエピソードが始まるからだよ」



「は?なんですかそれは」



締めの雑炊の準備をしていた夕陽は動きを止めた。



「最初はね、君とみなみくんとで今年の思い出を話ながら染み染みと進行してもらおうと思ってたんだよ」



「はぁ……」



全然話が見えてこない。

夕陽はただ首を捻るばかりだ。

そこに笹島が加わる。



「そうそう。でもさ、若い男女…それもカップルが二人きりってシチュエーションだぜ?そんな中で話がムラムラっと盛り上がって、アダルトな展開になるかもしれないだろうが」



「なるか!」



「いやいや。何があるかわからないのが男女の仲ってヤツだ。でもこの作品は「全年齢向け」だ。それを阻止する為に俺らが居てやるんだよ」



「……そんなの朝チュンって裏技があるだろ。何かあったんだな的な演出が」



するとみなみが大声をあげる。



「わー!何それ。夕陽さん、年末のクソ忙しい時にそんなエッチな事考えてたの?煩悩の塊じゃん」



「考えるか!それにクソ言うな!ただ俺は一般的な…」



「朝チュンが一般的なんだ」



「……もう止めようぜ」



赤い顔で夕陽は鍋を掻き混ぜる。

こうして29日の夜は過ぎて行った。

勿論、胸トキメクような朝チュン展開等なく、夕陽は酔い潰れた笹島と一十の世話をして明け方近くまで眠れなかった。



明日30日は大掃除である。












 

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