第20話「特別編•人気絶頂アイドルと一般男性のクリスマスイブ」

「あー、そういえばさぁ、今日ってクリスマスイブじゃね?」


「へ?あれ、そういえばそろそろそんな季節になったのか…」



隣で集計ソフトに悪戦苦闘する笹島の呟きに、夕陽が資料の書類から顔を上げる。


今日は12月24日。

つまり世間で言うところのクリスマスイブである。

各家庭ではクリスマスツリーを飾り、いつもよりやや豪華な食事を囲み、思い思いのプレゼントを贈り合い、楽しく過ごす一年の内で最も心華やぐ一日である。


しかし夕陽の会社にはそんなプライベートなクリスマスは存在しない。

イベント会社であるこの職場はこの季節は修羅場となっていた。


社員は皆、方々へ飛び散り各会場の設営に奔走し、夕陽たちは会社に残り、トラブルや些末な連絡係として朝から晩まで大変な忙しさだ。



「そんな季節にじゃないぞ。夕陽。もう当日なんだよ!」



笹島がこちらをクワッと見返してくる。

その目元には青黒い隈取りが見えた。

元気に見えて、彼も相当消耗しているようだ。



「まぁ、そっか。でもこれからが正念場だよな。まだ保養施設が二件待ってるからな。あの辺りの地理がまだ頭に入ってなくて、明日の搬入少し前倒しして余裕持たせとくよう調整……」



「おいおい、仕事の本番じゃないんだよ。彼女とはどうすんのって話」



笹島が「彼女」の部分だけ小声になる。

夕陽はそれを聞いて顔を曇らせた。



「あっちも仕事だよ。お前知ってるだろ。毎年アリーナでやるテレビの歌番組」


「あぁ、そっか。そっか。でもその後とか…」



「無理無理。それにこっちも帰れるかわからん仕事の量なんだぞ」



そう言って夕陽は資料の束をポンと叩いた。

現代はデジタル社会というが、ここはまだ紙社会で成り立っているのが何とも前時代的である。



「明日はクリスマス本番じゃん、きっと明日こそなんかあるさ」


「励ましてるようだけど、お前の彼女も同様だからな?」



「俺はお前と違ってメッセージしまくってるもん」



そう言って笹島は誇らしげにスマホの画面を夕陽へ向ける。



「なっ…」



そこには楽屋にトロエーのメンバーが揃ってこちらに手を振る写真があった。


ちなみに自分もスマホを見てみたが、みなみからのメッセージはなかった。


こちらから催促するようにメッセージを送るのも癪なのでスマホを乱暴にポケットへ突っ込む。



「これがマメな彼女とズボラな彼女の差なのか…」



「まぁ、まぁ。お楽しみは明日って事でさ、明日に期待しろよ。みなみんの事だ、きっとお前がドン引きするくらい凄いサプライズを準備してるかもだぜ」



「それはそれで怖ぇよ」



笹島がバンバンと夕陽の背中を叩く。



「クリスマスなんて別にどうでもいいんだよ」



クリスマス当日へ続く?






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